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ー過去ー35

 丁度、望たちが話を終えた頃、裕実がロッカールームから出て来る。 「じゃあ、俺は帰るからな」  そう言って望は裕実に笑顔を向け、部屋を出て行く。 「珍しいですね、望さんが和也の近くに居たなんて……」 「きっと、今日は雄介に会えるから機嫌が良かったんじゃねぇのか?」 「そうなのかもしれませんね。昨日、そんな事言ってましたから」 「昨日って?」  和也に問われた裕実は慌てて口を塞ぐが、時すでに遅しといったところだ。和也はその話題について聞く気満々の表情をしていた。 「先に言っておきますけど、望さんが和也にあまり話をしないのは、和也が望さんのことを冷やかすからですよー」 「ふーん、そっか……だから、お前も俺に真実を話してくれないって訳だ」 「……って、何を言ってるんですか!?僕は和也には色々話してるじゃないですかー」  裕実の慌てぶりを、和也は見逃さない。 「やっぱり、そうじゃねぇか。まぁ、それは、前に俺が待つって言ったから追求するってことはしねぇけどな。悪いが、俺はどんなお前だって離す気はねぇからな……昨日、散々話しただろ?何があろうと俺はお前のことが好きだからな。もし、お前が女性だったら今すぐにでも結婚したいくらいなんだよ」  和也は微笑んでいるが、どこか悲しげな表情を浮かべながら裕実の体を抱きしめる。  裕実はひと息吐くと、 「和也……ありがとうございます。昨日、僕は和也にあんな事を言ってしまいましたが、僕も本当に和也のことが好きです。前に和也の恋人だったっていう本宮さんに和也を奪われたくはありません。だから、もし本宮さんとの一件が解決できたら、和也にちゃんと色々と話しますからね」  和也は裕実の言葉に一瞬目を丸くしたが、次の瞬間にはいつも以上の笑顔になって、 「分かった。お前と本当のカップルになれた時には、裕実に本当のこと話してもらうことにするよ。俺も裕実にもっともっと信用してもらうために、今回のことについては頑張ってみるからな」 「はい!」  裕実はそう言うと、和也の唇に唇を重ねた。    その頃、望は自分の家の駐車場に車を止めていた。  望は車から降りて家を見上げると、灯りが点いていることを確認する。昨日とは違い、家には灯りが点いていて、人の気配もあるようだ。  そんな家の気配に望は軽く微笑むと、玄関へと足を運ぶ。

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