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ー過去ー36

 望がドアを開けると、ドアの向こう側には雄介の笑顔が待っていた。 「おかえり」 「ああ、ただいま」  一日ぶりの再会。たった一日とは思うが、恋人たちにとっては長い一日だろう。  望からしてみれば、その一日ぶりの雄介との再会にまだ慣れていないようだ。雄介に会うと、思わず顔を赤らめ、うつむきながら部屋の中へと入っていく。  望がリビングへ入ると、テーブルの上には湯気の立つ料理が並べられていた。  湯気が立っているところから察するに、雄介はきっと望が帰宅する頃を見計らって料理を作っていたのだろう。 「とりあえず、飯にしようか?」 「ああ、そうだな」  望はその雄介の言葉に返事をすると、ソファに鞄を置き、スーツのジャケットをソファの背もたれに掛け、ネクタイを緩めながら椅子に腰掛ける。  昨日は和也が座っていたが、望の前に座っているのは恋人である雄介だ。  二人で手を合わせて「いただきます」と言うと、望はあることに気付く。  いつもより料理が豪華に見えるのは気のせいだろうか。メインの料理はステーキだ。しかも、テーブルクロスまで敷かれている。そして望から見て左手には、花瓶に一輪のバラが飾られていた。またその横にはワインボトルとワイングラスまで置かれている。ここまでくると、誰かの誕生日かと思うほどだが、どう考えても望の誕生日でもなければ、雄介の誕生日でもない。 「なぁ、雄介……今日、何かあったのか? っていうか、誕生日だったか?」 「あー! 料理のことな」 「あ、まぁ……そうなんだけどさ……。今日のご飯はステーキだし、ワインも置いてあるしさ……。何か祝い事でもあったのかな? って思ってよ……」 「もー、望、嫌やわぁー。忘れてもうたんかいな……今日は望と出会ってから一年目やで……」  その雄介の言葉に目を丸くする望。 「って、そんなこと、よく覚えてたな」 「覚えるも何も……望はむっちゃ印象的やったしな。まぁ、あん時はまだ入院しとった頃やったけど」 「あー、そうだったな。しかし、この一年間、お前は怪我ばっかしてたよな?」 「まぁ、確かにな……そうやけど……まぁ、望がおったから助かってなかったのかもしれへんしな」 「あのなぁ、前にも言っただろ? 確かに治療すんのは医者だけど、治す力っていうのは患者さん次第なんだってな」

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