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ー過去ー37

「そんでも望が居らんかったら、生きる希望っていうのがなかったのかもしれへんしな。助かることもできへんかったかもしれへんのやで……」  その雄介の言葉に、望は顔を赤くしていた。 「本当、お前ってそんな恥ずかしい言葉を口にできるよなぁ」 「そりゃ、好きな人には好きだっていう気持ちを伝えたいからや……。でもな、望は無理せんでもええからな。俺の方は十分に望の気持ち分かっておるし」  雄介は望に笑顔を向けると、望の頭をくしゃくしゃと撫でる。 「お前なぁ、俺のこと、子供扱いすんなよな」  望は頬を膨らませながら雄介のことを見上げるが、雄介はその望の表情に本気さを感じなかったのか、クスクスと笑い始める。 「ホンマ、望って可愛えのな……」 「うるせぇーよ。男に向かって『可愛い』って言葉は褒め言葉じゃねぇんだよ」 「まぁまぁ、俺の方は、そこは望やから可愛いって言ってんねんで……」 「あー、もー、言ってろ……」  そうは言っているものの、望の方は雄介の言葉に幸せいっぱいの表情をしている。確かに男の望にとって『可愛い』って言葉は褒め言葉ではないのだが、それを恋人が言っているのだから悪い言葉ではないのだ。  確かに一年前に雄介にそんなことを言われていた時は本気で怒っていた。恋人となった今では言ってもらうのは全然構わないのだが、ただ素直に嬉しいと表現できないだけだろう。 「ごちそうさま……」 「俺の方もごちそうさまやな。ケーキも買ってきたんやけど食うか? ワインとどっち先がええ?」 「お前さぁ、普通、料理とワインは一緒なんじゃねぇ? ま、俺も気付かなかったっていうのも悪いんだけどさ」 「そうやったんか!? あまりワインなんか普段は飲まんし知らんかったわぁ」 「まぁ、過ぎちまったことは仕方がねぇけどな。ワインで乾杯してからケーキ食おうぜ」 「せやな」  雄介はワインのコルク栓を開けると、グラスにワインを注いでいく。  雄介はいつの間にか部屋の照明を落としていて、ワインの横にある蝋燭に灯りが灯されていた。  きっと雄介が一生懸命考えた演出なのだろう。 「ほな、乾杯」 「乾杯」  蝋燭だけの灯りの中、相手の顔はよく見えないのだが、二人はきっと幸せそうな笑みを漏らしているに違いない。  今の二人は、きっと一年前に出会った時のことを思い出しているのであろう。

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