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ー過去ー39

「そうだな」  望は雄介に「お前が作ったから美味いんだぜ」とは言えず、普通に相槌を打ってケーキを口にする。 「そういやさぁ、前に俺が記憶喪失になった時、お前が俺の前から消えたことがあっただろ? 何であん時、俺の前から消えたんだ?」  望の言う通り、以前、二人が初めてデートに行った際、火災に巻き込まれ、その時に望は記憶喪失になったことがあった。しかし、雄介がなぜ急に望の前から姿を消したのか、その理由を望は聞いていない。 「あ、それはな……。言ってもええか? 望、それ聞いて傷ついたり、怒ったりはせぇへんか?」 「なんだよそれ。なんか俺、悪いことでもしたのか?」 「いや……別に……してへんのやけどな」 「それなら、話してもいいだろ? 俺の方は気にしてねぇしさ。第一、俺からそのことについて聞いてんだからな」  雄介は望のその言葉に、とりあえず納得すると、望に話し始める。 「確かに、あん時、レスキュー隊員になれるって話はあったんやけど……それは表向きの理由で、ホンマはな、記憶喪失だったお前から逃げたんやって……。記憶喪失だった望はな、その……いつもの望やなくて、積極的な望やったんや。ほら、俺はいつもの望に慣れたばっかやったから、記憶を失ったお前のことは『望やない!』って思ってしまって、それで望のことを和也に預けて、逃げるようにレスキューの訓練を受けに行ってしまったんや。だけどな、そこで俺はちゃんと反省して、好きやったら、どんな望でも離してしまったらアカンって思ったんや」 「そうだったんだな。でも、反省したんだからいいんじゃねぇのか?それに、もしそん時、俺が記憶喪失じゃなくて普通に過ごしてたら、レスキュー隊員の訓練に行けなかったかもしれねぇんだろ?それで、レスキュー隊員にもなれなかったかもしれねぇんだしよ。やっぱ、その……消防士にとってレスキュー隊員になれるのは夢みたいなもんなんだろうしさぁ」 「そりゃ、まぁ、そうやねんけどな。だけど、その後も最悪やったやんか……人事で俺は大阪に行くことになってもうたしな。もし、あん時、俺が普通に相談しておったら、レスキュー隊員にならなくて、ずっと東京に居れたかもしれへんのやで……」 「でもさ、過ぎたことを今言っても仕方なくね?そういうことがあっても今が幸せなんだからさ。それに今は親父に家まで建ててもらえて住んでるんだからな」

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