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ー過去ー52

 雄介は望の後にベッドから降り、彼も着替え始める。 「せや、昨日の話やけど……」  そう言って、雄介は思い出したかのように話を切り出す。 「あんな……望の誕生日の日、多分、俺の方は仕事が休みやねん。だから、望が帰ってくるまでには何か作っておくな。朝帰りやし、昼間のうちに用意しておいたら夕方までには出来ると思うしな」 「あ! ……多分、その日は俺も休みだと思うぜ」 「休みなんか!? ほなら、久しぶりにどっかデートに行かへんか? ほんで、夕飯は外食でええねんやろ?」 「ああ、俺の方はそれで構わねぇぜ」  望は一瞬、「お前と一緒に居られるなら何でも構わない」と言おうとしたのだが、やはり性格が邪魔してしまったのか、その言葉を雄介に向かって素直に言えないまま着替えを終える。 「ほな、決定な」 「ああ……」  雄介は望のその思いを知る由もなく、その話を終わらせたらしい。  二人が着替えを終えると、雄介は朝食を作り、望はニュースを見ながら新聞を読み始める。  リビングには、テレビから流れる音と朝ご飯を作る音が響き、日本の朝の生活音をリズムカルに奏でているようだ。  しばらくすると、雄介の方は朝食の準備を終えたのか、キッチンからの音が止み、代わりに雄介が望を呼ぶ声がリビングに広がる。  いつも聞いている雄介の低く甘い声に、望は体を一瞬だけビクつかせたが、新聞をテーブルの上に置くと、雄介のいるテーブルの方へと向かう。  望の体がビクつくほどの雄介の声。やはり好きな人の声だからこそ、体に響いて聴こえてしまうのだろう。 「今日もいっぱい食べて、お互いに頑張ろうな」 「ああ……」  その雄介の言葉に、望は真顔で答える。  望が笑顔ではなく真顔で答えたのは、性格的な理由もあるだろうが、朝から雄介の声をまともに聞いて再び鼓動が高まってしまい、そんな様子を雄介に悟られたくなかったからかもしれない。だからこそ、ポーカーフェイスになってしまったのだ。  そんな望の心境が雄介に分かるはずもなく、望の相変わらずの態度に、雄介は納得した様子で軽く微笑んだのだった。  むしろ、その方が二人らしいのかもしれない。 「ほな、いただきます」

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