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ー過去ー67

 望は春坂病院のIDカードを警察官へと見せる。だが、警察官の方はそれについて詳しくないのか、 「救急車は既にそこに待機している状態なんですが……」 「本当に分からない人だなー。救急隊員と医者とでは役割がかなり違うんですよ!救急隊員ではできないことがたくさんあるんですが、医者はそれ以上のことをできるんです!」  望は真剣な表情でその警察官に食って掛かる。 「分かりましたよ」  やっとその警官は望の言っていることを理解したのか、望を通すのだが、その後ろにいた裕実が今度は止められてしまったようだ。 「僕も前にいた人と同じです。医者ではないのですが、僕は看護師ですから」  裕実もそう言って、望同様にIDカードを警察に見せる。 「分かりました。では、どうぞ……」  やっとのことで二人は事故現場の中へと入れたようだ。現場内に入れたのはいいが、まだ雄介たちは助け出せていないようで、望も裕実も少し離れた所で待っていた。  さすがに望も裕実も今はこれ以上現場に近づくことはできない。この領域はレスキュー隊の仕事で、まだ望たちの出番ではないからだ。  それから二十分後、事故車から人が助け出される。そして雄介の腕の中には五歳位の男の子がいて、その子を抱き上げて真っ直ぐ望がいる場所へと向かって来るのだ。  そして雄介は望にその男の子を託すと、 「ほな、後はよろしくな……」 「ああ、任せておけって……」  望はそう笑顔で答えると、今度は望たちが人を助ける番となる。  一方、雄介は助けた男の子を望たちへと任せると再び現場へと向かい、次の要救助者の方へと向かって行ったようだ。  レスキュー隊から医者へと救助リレー。雄介から望へとバトンは渡された。  望はその子を救急車へと運ぶと、応急処置を始める。  今は恋人としての喧嘩など関係ない。今は仕事としてバトンを渡されているのだから。  望が車から降りたのも、雄介と喧嘩するためではなく、人を救助するために降りたのだ。  望が処置をしている間に、レスキュー隊はもう一人助け出したらしく、雄介はもう一台来ている救急車の方へと運んでいる。 「よしっ!」  望はそう言うと、側にいた救急隊員に、 「とりあえず処置は済みましたから、後は患者さんを病院の方に運んでください」  そう指示を出し、望は次の救急車へと向かうのだった。  しばらくして、和也が現場へと戻って来た頃には、すべての仕事が終わっていた。

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