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ー過去ー97

 和也は車の窓を開けると、 「とりあえず病院までは乗せて行くからよ……」  明らかに和也が怒っているのが分かるだろう。声のトーンは低く、その言葉遣いはどう考えても上から目線に感じられる。  そんな和也に対して、望は素直に態度を返してしまうようで、 「いいよ! 俺の方はタクシーでも使って行くからさ!」  一瞬は和也の車に乗りかけた望だったが、その態度にムカついたのか、ドアを強く閉めた。 「じゃあ、タクシーで来いよ! じゃあな……」  和也は望に向かってそう言うと、裕実を助手席へ乗せて車を走らせてしまう。  その姿を見て、望はため息を漏らした。 「仕方ねぇ……今日はタクシーで行くか……」  そう呟きながら望は携帯でタクシーを呼び、病院へ向かう。  まさか朝から和也とあんなに喧嘩するとは思ってもいなかった。もしかしたら、今までにない大きな喧嘩だったのかもしれない。  病院に到着した望は、自分の部屋へ向かう。そこには先に到着していた裕実が着替えを終え、ソファにちょこんと座っていた。 「どうしたんだ?」  望は優しく裕実に声を掛ける。 「僕のせいで、望さんと和也の仲が悪くなってしまったみたいで……」 「そんな事はねぇよ。これは和也と俺の問題なんだから、お前が気にすることじゃねぇ。それにアイツは俺のこと分かってるから……分かってくれてんじゃねぇのかな? さっきアイツが言ってた通り、親友だから言いたい事を言える仲ってのは本当だよ。俺が素直じゃないのもアイツは知ってるはずだからな。多分だけど……俺がさっき言った事、本気にはしてないと思うんだけどなぁ」 「そうだったんですか!?」 「ああ、俺はな……。和也がどう思ってるかは分からないけどな」  望は鞄をソファに置くと、着替えるためにロッカールームへ向かった。 「和也なら大丈夫です! きっと望さんが言った事、本気にはしてないと思いますから。本当に和也と望さんって仲がいいんですね」 「まぁな……」  ロッカールームから着替えを終えた望が出てくる。 「さて、気持ちを入れ替えて仕事に行くぞ!」 「はい!」  裕実は安心した様子で微笑んだ。

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