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ー過去ー100

 望の中では今にも雄介に抱きつきたい気持ちが溢れているのだろうが、自分の性格が邪魔をしているのか、それを行動には移せないようだ。ただ、正面を向いて微笑むだけで気持ちを抑えてしまう。 「ゴメン……望は嫌かもしれへんけど、やっぱり目の前に望がおったら我慢できへんようになってきたわぁ」  雄介はそう先に謝ると、望の体を横から抱きしめた。  だが、それは望も望んでいたことだったようで、嫌がるどころか、この小さな幸せの時間を大人しく受け入れていた。しかし、いきなり後ろからクラクションを鳴らされ、現実に引き戻されてしまった。 「せやったな……今、まだ車の中やったんだっけな」 「ああ……」  現実に戻された望は顔を赤くしながら運転を再開する。  その後は車がスムーズに動き出し、雄介を乗せたまま家へと到着する。 「はぁー、やっぱり遅くなっちまったな」 「せやな……さっきまでは明るかったのに、もう空は真っ暗やな」  雄介はそう言いながら車から降り、空を見上げた。 「一番星見つけた!」 「意外にお前ってロマンチストなんだな」 「一番星って願い事が叶うんやろ?」 「それは流れ星のことだろ? あんなの無理に決まってるよなぁ。三回も願い事言わなきゃなんないんだぜ」 「でも、三回言えたら願い事が叶うって言われてるんやろ?」 「まぁな……でも絶対無理なんだからな」 「……ってことは……望はやったことあるんか?」 「ああ、ある」 「なんや意外にやったことがあるんやんかぁ」 「子供の頃にな」 「子供の頃かぁ……俺は流れ星、一回も見たことないしなぁ」 「そうなのか!? まぁ、流れ星はそうそう見られるもんじゃないけどな……願い事云々より、見られただけでもラッキーなことなのかもしれねぇぞ」 「そうかもしれへんなぁ」  雄介が再び夜空を見上げると、ちょうどその時に流れ星がスッと流れる。 「今! 流れ星がっ!」  雄介が興奮気味に声を上げる。 「な? だから一瞬だろ?」 「あー、確かにあんなんじゃ願い事考えてる間に流れてもうわぁ」 「さて、そろそろ寒いし部屋に入ろうか?」 「ああ……」  雄介は望の後に付いて部屋の中へと入る。 「さて、飯の用意せなあかんな」 「ああ」  望は鞄をソファへ置くと、そのまま腰を下ろした。

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