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ー過去ー101

 望は何かを思い出したのか、急にソファから立ち上がり、テーブルの方へ向かうと口を開く。 「あのさぁ、今日、和也と喧嘩しちまった」 「……へ? 望と和也がか!?」  雄介は、ちょうど料理をお皿に盛り付けている最中だった。その突然の告白に、お皿を持ったまま驚いて目を丸くし、望の方へ顔を向ける。  望は雄介の問いに、小さく頷いた。 「最近、どうしたん? 望……喧嘩ばかりしてるやんか」 「原因っていうのは自分でも分かってるよ。俺が悪いのも分かってる。でも、素直になれねぇんだよな。喧嘩の理由っていうのはいつもそれ……雄介の時も、和也の時もそうなんだから。分かってるのに、どうしようもねぇ。言えねぇんだよ」  切なそうに語り始める望。  雄介は料理をテーブルに並べると、望の正面に座り、静かに口を開いた。 「望……ちょっと説教みたくなるかもしれへんけど、怒らんと聞いてくれるか?」  その言葉に望は頷く。 「望が素直じゃないのは、俺もよう分かっとる。けどな、それが望の性格なんやから、『素直になろう』って無理に思わんでもええと思う。ほんなら、使い分ける方法を考えたらどうや? それに、自分で原因が分かっとるなら、反省せな意味がないやろ?」  雄介は、強く責めるのではなく、穏やかな口調で諭すように言う。 「確かにそうなんだよな」 「和也と元通りになりたいなら、今回のことはしっかり謝った方がええと思うで。和也も、ちゃんと謝れば特に気にするような奴やないやろ?」 「やべっ! それ、和也にも同じこと言われたわぁ」 「ほなら、そうするしかないやろ? 一回だけでも謝れたら、それで仲直りできる。昨日、俺にはちゃんと謝れたんやから、望には出来るはずや」  雄介は望の肩を軽く叩き、気合を入れるように笑うと続けた。 「絶対大丈夫やから。とりあえず飯食おうや……冷めてまうし」 「ああ」  望は返事をしながらも、まだどこか浮かない表情をしている。 「望にとって、謝るってそんなに難しいことなん?」 「あんまり人に謝ったことがねぇからな」 「それって、どういうことなん?」 「小さい頃から謝るって環境がなくてさ……なんか、恥ずかしくて言えなくなっちまうんだよな」 「望は小さい頃、悪いことしたことなかったん?」 「ずっとばあちゃんと住んでたしな……ばあちゃんはあんまり怒らなかった。毎日勉強してたから、悪いことしてる暇なんてなかった、って感じかな」

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