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ー過去ー106
「今はいいんだろ? さっき、お前は時と場合を選べって言ってくれたじゃねぇか」
「ま、そやなぁ」
雄介は望の言葉に納得すると、浴槽の壁に背中を預ける。
「な、望……。あのな……話変わんねんけど、聞いてくれるか?」
雄介は今度、真剣な瞳で望を見つめる。だが、望の方はいつもと変わらない様子だ。
「なんだよ、急に改まって……」
「あのな……さっき、望が言っていた事を聞いて考えている事があんねんけど」
「……へ? 何だよ……勿体ぶらないで言ってみろよ」
「……俺な……仕事辞めようかと思ってねんけどな?」
「仕事を辞めるのか? 雄介は本当にそれでいいのかよ。せっかく、レスキュー隊員にもなれたのにか?」
「せや……。まぁ、そこは前から悩んでおった所なんやけど、今日の望の言葉聞いて余計に決めたって所なんかな?」
「今日、俺がなんか雄介に言ったか?」
その望の言葉に、雄介は体を起こして望の顔寸前まで近づけると、人差し指を立てて言う。
「ああ! 言っておったって! 確かに望の言う通り……丸一日、望に会えないのは嫌やなぁって思うっておった所やしな」
「でもさ、お前にとってレスキュー隊員になるのは夢だったんだろ? ってか、レスキュー隊員になれたって事は、お前という人物はさ、辞めちゃいけない重要な人物なんじゃねぇのかな?」
「んー、まぁ、そうやと思うねんけど……。望にあないな事言われてもうたら、考えてしまうよなぁ?」
「……ってか、今日の俺、お前に仕事辞めてもらいたいような事言ったのか?」
「ああ、言っておったわぁ。『和也は羨ましい。裕実と同じ病院で働いているんだから毎日のように会えるからいいよな』みたいな事を言っておったで。それを俺なりに解釈すると『俺も和也達みたく、雄介と働いてみたいなぁ』って事になんねんやろ?」
せっかく望は顔の赤みを抑えたはずだったのだが、雄介の言葉で再び顔を赤くし始める。
確かに、雄介の言う通りなのかもしれない。表立っては「恋人同士で同じ病院で働けているのはいいなぁ」と聞こえるのだが、裏を返せば雄介が言った通りになるのだから。
「とりあえずな、一緒に働く事を考えると、望が消防士になるのは無理やと思うし……それやったら俺の方が動くしかないやろ? せやから、俺はレスキュー隊員を辞めて、医者か看護師になろうと思ってんねんけどなぁ?」
その雄介の言葉に、望はなぜか首を縦に振る気にはなれなかった。
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