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ー過去ー107

「確かに俺はそう言ったのかもしれねぇけど……雄介は本当にそれでいいのか?」  そうしつこく聞いてくる望の質問に、雄介は頷きながら答えた。 「ええんやって……前から考えておった所やしな」 「だけど、一緒に働きたいとなると、今から学校に通わないといけないだろ? 例えば医者になりたいんだったら、六年間も学校に通わなければならなくなるんだぜ。それで医者になれるのは六年後だし、看護師なら三年だったかな? お前にそれが出来るのか? 確かに六年間我慢すれば毎日のように一緒にいられるのかもしれねぇけどな」 「……へ? 六年!?」  望が口にした今の言葉は、雄介にとって初耳だったようだ。目を丸くしながら望に視線を向ける。 「ああ、そうだ、六年間だ! まさか、その事を知らなかったっていうんじゃねぇんだろうな?」 「そないな事知ってる訳がないやんか……。普通の大学やったら四年やし、専門学校やったら一年から三年やろ? まさか、医者になる為には六年も学校に行かなきゃならへんかったのは知らんかったわぁ」 「それから、国家試験を受けて、それに受からなければ免許は貰えないんだからな。俺はその為に今までどれだけ勉強してきたか。俺の方は小さい頃から勉強してきたけど、お前の場合は今から勉強しなきゃならないんだぞ……それが出来るのか?」 「それなら、目の前にええ先生と家庭教師がおるやんかぁ」  雄介は本当に真剣に考えているのか、それとも悩んでいないのか、満面の笑顔で望を見つめる。  そんな雄介に、望はため息を吐いて答えた。 「医者を甘く見んじゃねぇぞ。普通、医者っていうのは、そう簡単になれるもんじゃねぇんだからな」 「な、望はそう言うねんけど、望は簡単やったんやろ? まだ若いのに、もう一人前の医者として働いてる訳やしなぁ」 「俺は小さい頃から勉強してきたって言っただろ? それに親もしてたんだから、遺伝っていうのもあるんだしさ……だから、そこのところは苦労はしなかったっていうのかな?」 「ほな、看護師やったら?」  雄介の質問に、望は再びため息を吐いた。 「あのなぁ、お前はさぁ、どっちにしようかと迷ってる時点で間違ってるんだよ! 医者も看護師もホント甘ーく見すぎなんだよっ!」  望は雄介のその優柔不断さと甘く見ている態度に苛立ち、今度は真剣な瞳で雄介を睨みつける。 「そんな考えなら辞めてくれ! 確かにさっき俺は遠回しに『お前と働きたい』とは言ったのかもしれねぇが、ハッキリと決めてないんだったら、お前には医者や看護師になる資格はねぇって言ってんだよ。お前が医者や看護師になりたいのは、不純な動機からだろ? ただ単に『俺と働きたいから』ってだけなら、絶対に止めてくれ。俺達っていうのは患者さんとその家族の為に運命のかかった仕事をしてるんだからな」

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