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ー過去ー108
「そんくらい……望に言われなくても分かっとるがな……。俺やって、今の仕事がそうなんやからなぁ」
雄介はため息交じりにそう言うと、少し肩を落として続ける。
「ほな、俺はどないしたらええの? さっき望にあないな事言われて、前から転職しようかと悩んでおったのに、やっと決意して『これや!』って思った矢先に、望にダメやって言われたら、どないしたらええんか分からんようになるやんかぁ……」
そして、ぽつりと声を落として言った。
「それに、レスキュー隊員やと、いつ死ぬか分からへんのやぞ……。せやから、望を安心させる為にも、看護師か医者の方がええんちゃうか? って思うたんやけどな」
今まで転職に反対していた望だったが、雄介の真剣な言葉に、少し考え込むような表情を浮かべた。しばらく沈黙が続き、望は視線を宙に漂わせる。
「……た、確かに、毎日のように雄介が怪我してねぇか? って気にはなってるけどよ……」
そこまで言うと、望は顔を雄介に向け、少し迷ったように尋ねる。
「とりあえず、もしお前が医者になるんだったら……ちゃんとした医者になるまで俺と一緒に居られるのか?」
その問いかけに、雄介は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに穏やかな笑顔を浮かべた。
「ああ、そこは大丈夫やって。俺はこれからもずっと望の事が好きやし、もし俺が医者になる道を選んだとしても、望とは一緒に居る……それは絶対に約束する」
「じゃあ、もしもお前が医学部に行って、可愛い女の子に告られたらどうすんだよ?」
「『俺には可愛い恋人がおるから』って、すぐに断るしなぁ」
「そっか……」
「これで、安心してくれたんか?」
だが、望はまだ雄介が医者になることに納得していないようだ。首を縦に振る様子はない。
「ほんなら、俺はどないしたらええんや?」
雄介の問いかけに、望は少し息をついて、正直な思いを伝える。
「……俺的には、やっぱ、どんなに心配になったとしても、雄介にはレスキュー隊員であって欲しいってのが本音なんだよな」
「……」
「確かに、丸一日会えないのは辛いよ。だけど、雄介が医者か看護師になるっていうのが、どうにも納得できないんだよなぁ」
「やっぱ、アカンか?」
「それに、俺的にはさ……お前には、なんだか向いてないと思うんだけど……」
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