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ー過去ー113

 望はいつものように病院内の部屋へと向かう。  そこには裕実がソファに座っていた。 「裕実……おはよう」 「おはようございます! 望さん!」  そう元気よく返事をする裕実。 「今日はやけに元気なんだな……」  望はそう言いながら、鞄を自分の机の上に置いた。その直後だっただろうか。 「まぁ……はい!」  裕実は何か言いたげな表情をしていたが、望の前では話してはいけないと思っているのか、返事だけで留めてしまったようだ。  しかし望はそんな様子の裕実には気付かず、ロッカールームへと消えて行く。  やはり二人の間ではあまり会話が弾まないようだ。二人ともどちらかと言えば聞き手側で、積極的に話すタイプではないからかもしれない。  望が部屋から出て診察室へ向かおうとした時、ちょうど隣の部屋にいた和也たちも出て来たらしく、望と和也が鉢合わせしてしまった。今の二人は喧嘩をしているため、どこか気まずい雰囲気が漂っている。  だが、和也から望に声を掛けてくる。 「よっ! 望!」  いつも明るい和也の声に、望は顔を上げると、変わらない調子で答えた。 「おう!」 「とりあえず、また後でな……」 「あ、ああ……またな」  望は素っ気ない態度ではあったが、どこかホッとしたような表情を見せた。  その後ろを歩いていた裕実が望に顔を向けると、 「昨日の和也との喧嘩、望さんは気にしないでくださいね。和也はああいう性格ですから、きっと一日経てば忘れてしまうんですよ」 「あ、ああ……そうみたいだな」  裕実はフォローを入れたが、実は昨日、和也のフォローをしていたらしい。そして今日は望に対してもフォローを入れ、二人の仲を取り持とうとしているようだ。二人の性格を汲んでフォローしているのだから、いつもの二人に戻るのは時間の問題だろう。  望はやっと楽になったのだろうか。昨日とは違い、いつもの望を取り戻したように見える。診察の時間も普通にこなし、今日一日の仕事を終える望たち。  すると、いつものように和也が仕事を終えると、望と裕実がいる部屋へ入ってきた。 「お疲れさーん!」  そう元気よく部屋に入ると、 「和也、うるさーい!」 「俺は元気なのが取り柄みたいなもんなんだから仕方ねぇだろ!」  和也はそう言いながらソファに座るのだった。

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