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ー過去ー121
それから暫くして、和也は急に顔を上げた。
「んー……別に変わった様子っていうのはないのかな? 会話だってごく普通の会話だしな。仕事のことばっか話してるみてぇだし」
「じゃあ、新城先生と本宮さんは、まだそんな関係ではないって感じなんですかね?」
「んー? どうなんだろ? まだ、一応外だから、ラブラブな会話っていうのはしないって事なんじゃねぇのかな?」
「口裏合わせみたいな会話もしてないって事なんですか?」
「ああ、してねぇな……。本当にごくごく普通の会話しかしてねぇって感じだな」
「一体、どういう事なんでしょう?」
「俺にも分からねぇよ」
「とりあえずさぁ、なんかメニュー頼まないとなんじゃねぇ?」
「そうだな……そうそう! 望の言う通り、今日はこっちがメインで来たんだしな」
和也は一旦、壁から離れてテーブルでメニュー表を開いた。
「これと、これと、これな!」
そう言って、和也はメニュー表で自分が食べたい物だけを選ぶと、すぐに壁の方へ戻ってしまった。
その和也の行動に、望はため息を吐きながらも電話でオーダーする。
裕実と望が和也のその姿をぼんやりと見ていると、今まで黙って聞いていた和也が急に立ち上がった。
「急にどうしたんだ? 和也……」
その和也の様子に、望は顔を上げて彼を見た。
「今、実琴が俺のこと話してる」
「……へ? マジでか!?」
そう声を上げたのは、今まで無反応だった望だ。
「ああ、まぁ、そうだよ。で、普通の会話っていうのは、俺が望に好きな物を頼んでる時に終わらせたみたいで、今は過去の話をしているみたいなんだよなぁ? そんな事を新城に話したら、新城の奴、完璧に俺の計画に気づいちまうんじゃねぇのかな? だってさ、新城は俺と裕実との関係を知ってるんだぞ。そんなんじゃあ、完全に俺が計画している事が絶望的になるんじゃねぇのかぁ!」
「そう思うのは、まだ早いんじゃねぇの? もし、新城が本宮さんの事本気だとしたら、そんな和也との本宮さんの過去の話なんか関係なくなるんだろ? まぁ、昨日、本当に新城と本宮さんがしたっていう話が本当ならの話なんだけどさ」
和也は望の話を聞くと、みるみるうちに顔色を変え、いつもの和也に戻ると、
「だよなー! まだ、口裏だとか本当の事なのか? っていうのは聞いてないけど、あの二人がカップルになった可能性はあるって事だよな?」
「そういう事だと思うぜ」
そして、和也が再び壁に耳を当てようとした直後、部屋のドアがノックされた。
「お待たせいたしました。ご注文のお品になります」
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