1399 / 1471
ー過去ー133
雄介が部屋のドアを開けると、望はすでにベッドに横になっていた。
だが、雄介は先ほどのことが気になって、どうしようかと部屋の中をうろうろと歩き回り始める。
雄介の性格からして、喧嘩した後にすぐに望の元に駆け寄るようなタイプではない。もしこれが和也なら、後ろから抱き締めて何とか機嫌を取ることができるだろうが、雄介は相手の許しが得られるまでは動けない性格なのかもしれない。
部屋を歩き回ってから十分以上が過ぎた頃だろうか。さすがに望も雄介の行動に呆れたようなため息をつき、ついに声をかける。
「雄介……何をしてるんだ? 明日も仕事なんだろ? そんなとこでうろうろしてないで、ベッドに横になればいいんじゃないのか?」
その言葉に、雄介はようやく明るい表情を取り戻した。望が素直ではない性格だと知っている雄介は、逆に遠回しに許してくれていることを理解して、嬉しくてたまらなかったのだろう。
望からの言葉を受けて、雄介はすぐにベッドに潜り込む。だが、許してもらうと調子に乗るタイプの雄介は、反対側を向いている望を後ろから抱きしめる。
「明後日は望の誕生日やんな……望がこの世に生まれてきた記念日や。望が生まれてきてくれたからこそ、今こうして一緒にいられるんやで。もし望が生まれてなかったら、こんな風に幸せな時間を過ごすことはなかったかもしれへん。本当に、望、生まれてきてくれてありがとうな」
今まで誰からもこんなことを言われたことがない望は、どう返事をすればいいのか分からない様子だ。それでも、雄介の言葉に対して、望は一生懸命考えた結果、とりあえず頷くことにした。
その様子を見た雄介は、流れを変えようと必死に話題を探し、望から離れて天井を見上げながら考える。
「あ、あー、ゴメンな……いきなり堅いこと言われたら返事に困るよな? せや、せや……あーと……」
しかし、和也のように自然に話題を変えることはできず、黙って考え込んでしまう。
望が穏やかに言う。
「……無理すんなよ」
ともだちにシェアしよう!