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ー過去ー140
最後に裕実は和也に笑顔を向けると、車はそのままホテルの駐車場へと入っていくのだった。
一方、望は明日の朝まで雄介が帰宅してこないため、二十七歳という年が残り三十分ほどで終わろうとしていた。
望は一人でワインを飲みながら、自分だけの時間を過ごしている。
この一年で望にはいろいろなことがあった。雄介に出会い、人生観が変わったように感じる年になった。
望と雄介があの時に出会わなかったら? 一体どうなっていたのだろうか。毎日同じように何も変わらない日々を過ごしていたのだろうか。それとも和也と付き合っていたのだろうか。そこは分からないが、望が雄介と出会い、何かが変わったのは確かだった。
実際、人生というのは何があるのか分からない。よく神様がその人の人生を決めているという話を聞くが、きっと人生というのは自分自身で決めていくものなのだろう。
例えば誰かに相談したとしても、最後は必ず自分の意志で結果を決めることになるのだから。
望も雄介と付き合うことを最後に決めたのは、自分の意志だった。雄介に告白され、そのことを友人である和也に相談したが、最終的には自分で雄介と付き合うと決めたのだ。
望がふっと時計の方に視線を向けると、二十七歳の時間はもう五分を切っていた。
「もう、二十七歳も終わりかぁ」
そう望はしみじみと呟く。
今まで誕生日なんか意識したこともなかった望。だが今年からは何かが違う。
友人にはお祝いしてもらい、これからは恋人にも祝ってもらえるのだから、笑みがこぼれないわけがない。
いつの間にか柱時計の短針も長針も天辺を指し、部屋には十二時を知らせる鐘が鳴り響く。そう、シンデレラだったら魔法が解ける時間だが、望の誕生日はむしろこれからだ。二十七歳という年を迎え、またどんな年になるのだろうか。とりあえず雄介がいる限り、いい年になるに決まっている。
望はワイングラスを天井に掲げ、一人で声を上げた。
「カンパーイ!」
一人で飲む酒は少し寂しい気もするが、今は仕方がない。恋人である雄介は仕事でいないのだから。それでも、その雄介は今日の午前中には帰ってくる予定だ。今日という日は望の誕生日なのだから、今日中に雄介に祝ってもらえれば十分だろう。
「さて、ワインも飲み終わったし、やることねぇから寝るか」
望は椅子から立ち上がり、自分の部屋へ向かうとベッドに横になる。
お酒のせいもあってか、ベッドに横になった直後、望はすぐに眠りに落ちた。
今の望は、たとえ雄介がいなくともベッドでゆっくり眠れるようになっていた。一人暮らしの時とは違い、僅かだが雄介の匂いがベッドには残っている。そして僅かな温もりさえあるのだから、望は心地よく眠れるようになったのかもしれない。
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