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ー過去ー143
『……ぞむ……望? 聞いてるのか?』
望は一瞬、固まっていたため、どうやら和也の話を聞いていなかったようだ。
『どうしたんだ? 望……!』
「あ、ゴメン……今一瞬……ボーッとしてただけだからよ」
『だから、どうしたんだ?』
「今……テレビでさ……救助隊の一人が死亡したって言ってたんだよ。だから、それで……一瞬、思考が止まってしまっただけだ」
『……へ? それはマジなのか!? でも、雄介とは言ってなかったんだろ?』
「それは、さすがに言ってなかったけどな」
『なら、大丈夫だよ。それはきっと雄介じゃないと思うしな』
和也は真剣な声でそう言うと、
『とりあえず、もうすぐ望の家に着くからよ。待っててくれよ』
「ああ、待ってる」
望も、「救助隊一人死亡」のニュースを受けて、一人でいるのが心細かったのか、和也の言葉を素直に受け入れたようだ。
それからしばらくして、望の家のチャイムが部屋内に響き渡る。きっと和也が心配して来てくれたのだろう。
望は重い体をなんとか起こし、ゆっくりと玄関の方へ向かい、和也を招き入れる。
ドアを開けると、和也は望のことを心配してか、真っ先に声を掛ける。
「望! 大丈夫か?」
「ああ、まぁ……今は一応な……」
そう言うものの、望の表情はいつも以上に暗い。
「ま、いいや……今日は望の誕生日だけどさ……こんなことがあったんじゃ、俺たちが望の所に来ない訳にはいかないだろ? とりあえず、悪いけど、上がらせてもらうぜ」
「ああ……」
望は本当に意識がしっかりあるのだろうか。そう思わせるほど、望の顔からは血の気が引いている。
三人はリビングへと移る。ニュースでは、未だに事故についての報道が繰り返されていた。花火工場での爆発事故の影響は大きく、十一時を過ぎても火が収まる気配はなかった。
「和也……ニュースでは春坂市って言っていますけど、僕たちに病院からお呼びが掛からないってことは、春坂の中でも遠い場所なんですかね?」
「ああ、あの花火工場があるのは、俺たちが住んでる市街地からずっと離れた場所にあるんだよ。だから、被害者はその近くの病院に運ばれたんじゃねぇのかな。俺たちが働く病院からは、かなり離れた場所にその工場があるからな」
「そういうことだったんですね」
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