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ー過去ー144
と、その時、再びチャイムが部屋内に響き渡る。
こんな時間に、誰かが望の家に訪れるなんてことは滅多にない。いや、今日は望の誕生日なのだから、もしかしたら歩夢や裕二が来たのかもしれない。
望はソファから腰を上げ、再び玄関へと向かう。
警戒しながらゆっくりとドアを開けると、そこに立っていたのは望が予想だにしない人物だった。
「……へ? え!? ……ゆ、雄介!?」
「あ、ああ……ゴメンな。遅くなってもうて……。これ買うてたら、めっちゃ遅くなってもうたんやって」
そう言う雄介の腕には、真っ赤な薔薇の花束がいっぱい抱えられていた。
「これ持ってたら、玄関の鍵もドアも開けられんくてな。せやから、望には悪い思うたけど、チャイム鳴らさせてもろたんや。とりあえず、望! 誕生日おめでとうさん!」
雄介は満面の笑みを浮かべていたが、それとは対照的に、望の様子はどこかおかしかった。
望は急に目に涙を溜め、じっと雄介を見つめている。始めは、雄介がしてくれたサプライズに感激しているのかと思ったが、どうやら違うようだ。望の顔には笑顔がない。
その様子に、雄介は頭の中で疑問符を浮かべているようで、首を傾げながら望を見つめた。
「……雄介……本当に雄介なんだよな?」
やっと望が口を開いたかと思うと、その言葉に雄介はますます首を傾げてしまう。不思議な質問に戸惑いながらも、何かを考え始める。
そして、望の言葉の意味に気づいたのか、雄介は優しい声で言った。
「望……本物の俺やって。とりあえず、説明は中に入ってからするしな」
雄介は薔薇の花束を持ったまま玄関から上がり、望の背中を軽く押してリビングへ向かう。
リビングに入ると、そこには雄介にとってさらに驚きの光景が広がっていた。和也ともう一人が、リビングのソファに座っていたのだ。
「何で、お前らがここにおるん!? 今日は望と二人きりで過ごす大事な日やのにー!」
「あのな、雄介……俺たちがどれだけ心配してたか、分かってないだろ?」
和也はゆっくりと立ち上がり、真剣な表情で雄介に歩み寄る。そして雄介の顔をじっと見上げると、一言。
「お前、ほんまに無事でよかったわ」
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