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ー過去ー184

「とりあえず、前に俺たちが疑問に思ってた実琴と裕実のことだけど、二人は正真正銘の兄弟なんだってさ。裕実は最初、本当に実琴っていう兄弟がいることを知らなかったらしい……だけど、ある時、アルバムを見たんだって。その中に、自分の知らない子が写っていて、親に聞いてみたんだ。『この子誰?』ってな。そしたら、お母さんが『この子は裕実のお兄ちゃんで、今はこの家にはいなくて施設に行ってる』って答えたらしい。  その時は、なぜ実琴が施設にいるのかを裕実も聞かなかったみたいだけど、後々、自分で理由に気付いたらしい。  それから、小学校に上がる頃から、裕実は父親に虐待を受け始めたんだってよ。虐待って言っても無理矢理っていうのか……調教を受けてたんだってさ。それが原因で、裕実は今も男性じゃないとダメなんだって。だから、女性を抱くなんて考えたこともないらしい。  これで、裕実の過去の話が全部分かっただろ?」 「なるほどなぁ。それは確かに、信用できる相手じゃなきゃ口に出せない内容だよな」  望は和也から聞いた裕実の過去を理解すると、今度は裕実の方に視線を向けた。 「裕実……俺たちはそんなことで引いたり、友達を辞めたりなんかしねぇよ。むしろ嬉しいっていうのかな? お前の過去の話を聞けてさ。それに、ずっと心の奥に仕舞い込んでいたことだろ? 一番苦しかったのはお前自身だったんじゃねぇのか?  そんな中で、和也みたいな奴がいて良かったじゃねぇか。恋人同士だろうが、友達だろうが、そのことで離れていくような奴なんか本当の仲間でもないし、本当の恋人でもねぇよ。相手のことを理解した上で初めて本当の友達や恋人って言えるんだと思う。上辺だけの友達なら、むしろ自分から切っちまえよ。その方がスッキリするからな」 「はい! ありがとうございます。でも、まさか望さんや和也さんが、ここまで心の広い人だとは思いませんでした。本当に僕……この病院で働けるようになって良かったと思ってます」 「それはお前が自分で努力して看護師になったからだろ? だから、そこは自信持っていいんじゃねぇのかな?」 「ありがとうございます!」  裕実は笑顔で望を見上げると、今度は和也の方に顔を向け、腕を絡めながら言った。 「和也も本当にありがとうございます。本当に今の僕は……幸せですからね」 「これからもずっと、俺は裕実のことを幸せにしていくつもりだからよ」

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