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ー天使ー3
「どういう意味って!?」
望はおうむ返しした後、雄介を鋭く睨み上げた。
その様子を見た雄介は、何かを察したのか、
「あ、あー、スマン! スマン! もう、俺は余計なこと言いまへん……」
と、慌てて弁解する。
望は腕を組んだまま、顎を動かして話を続けるよう促した。
「あ、あー、せやったな。とりあえず、この子は俺の甥っ子でな……この子の母親がちょっと病気で入院することになってもうて、ウチの姉貴はもう離婚してもうたし、とりあえず俺が預かることになったんやって……。ちなみに、姉貴も東京に住んどる訳やけど、この甥っ子が通っとる幼稚園はまだこっちやし、母親の入院も急に決まった訳やから、琉斗は仕方なく俺のところに来ることになったんや……。俺が東京に住むようになってからも、たまに琉斗とは会っててな……懐かれてもうてるんや。姉貴も兄弟として俺を頼ったってわけや」
「そういうことだったのか……」
望は一応納得したものの、すぐに雄介に顔を乗り出し、
「……で、この子の親の病気ってなんなんだ?」
その質問に雄介は一瞬、言葉に詰まり、転けそうになった。
普通ならまず甥っ子の状況について質問するものだろうが、望の職業柄か、そちらの方が先に気になるようだ。
「あー、とな……俺、説明するの下手でスマン……! とりあえず、琉斗の母親は今、春坂病院に入院しとるんやけど……」
「俺の病院の患者さん?」
「ああ……そうや。もしかしたら、望がその患者さんの担当しとるかなぁ? って思うたんやけど……」
「名前は?」
望は質問しながら、頭の中で名前を探るようにしていた。
「あ、えっと……桜井美里っていう名前やねんけどな」
「……桜井美里さんかぁ」
雄介の口から出た名前を反芻しながら、天井を見上げて考え込む望。
突然、望が大声を上げた。
「あ! 分かった! ……そうだ、そうだ! 確かにその患者さんなら、和也と俺が担当なんだけど……」
「やっぱりかぁ。まぁ、望が担当っていうんやったら良かったわぁ。ま、とりあえず、望! 琉斗と琉斗の母親のこと、宜しくな!」
「ああ……」
望はそう返事をしたものの、どこか腑に落ちない様子を浮かべていた。
その望の表情に気付いた雄介は、おそるおそる尋ねる。
「やっぱり、アカンかったか?」
「……ってか、この状況で子供を預かるのは、ダメとは言えねぇだろうが……それに、その子の母親の入院は少なくとも一ヶ月以上掛かるんだからな……。俺らがその子を家に置くのダメって言ったら、その子はどうなっちまうんだよ。だから、俺らが何とかしなきゃならねぇってことだろ?」
望の言葉には諦めとも覚悟ともつかない響きがあり、その一言が場の雰囲気を決定づけた。
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