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ー天使ー132
「せやなぁ。後は望たちの領域やし、今日は大人しく帰るな。ホンマ、望……今日はありがとうな」
雄介は望の手を握ると、いつもとは違う真剣な眼差しを望に向ける。それは恋人同士としての視線ではなく、患者の家族と医者としての関係から来るものなのだろう。
望もそれに応えるかのように、雄介と同じように真剣な視線を返す。
その真剣さは、二人が仕事中に見せる眼差しに似ているのかもしれない。
お互いの仕事中の顔を見たことはなかったが、今日は特別な状況ゆえに、二人とも真剣な瞳を見せ合っていた。
だが、その空気を破るように割って入ったのは和也だった。きっと、このままでは二人がいつもの雰囲気に戻れないと思ったからなのだろう。
「ま、堅いことはいいじゃねぇか。雄介の姉さんは助かったんだからさぁ」
「……って、何言うてんねん。『親しい仲にも礼儀あり』って言うやろ?せやから、俺は恋人としても人間としても、最低限の礼儀をせなあかんと思ってんねん」
「まぁ、そうだけどさぁ、なんか、仲がいい恋人なのに堅いっていうのかなぁ?」
「ほなら、和也が俺の立場やったら、どないする?」
まさか雄介からそんな質問をされるとは思っていなかったのだろう。和也は視線を天井に向け、雄介の質問を真剣に考え始める。
そんな和也の姿に、望はクスクスと笑い出した。
和也が雄介に押されている姿を見るのは珍しく、その様子が微笑ましく思えたのだ。
普段の和也なら「人の気持ちになって考える」ことが得意な人物だが、今日に限ってはそれを忘れていたらしい。
「そうか……やっぱり、雄介の言う通りなんだろうなぁ。例えば俺だったら、お袋が望に手術してもらった場合、確かに望に頭を下げるのは当然だな」
「せやろ?だから、俺はそう言うてんねん。ホンマ、望には頭が上がらんわ」
「だけど、まだ喜ぶには早いんだよな。本当に今日から二、三日様子を見ないと分からないからさ。悪いが、その間は家には帰れないからな」
そこは医者としての立場から出た言葉なのだろう。今の望には、雄介との恋人同士という感覚はなかった。今の望にとって、雄介は患者の家族という存在なのだ。きっと、雄介もそれを理解しているのだろう。
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