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ー決心ー4
確かに、歩夢の言う通りである。
再び雄介は溜め息を漏らし、
「ま、まぁ、そうやねんけど……」
と言葉を濁した。自分が言い返せないことに気付いたのか、話を変えようとする。
「ところで、どっから俺がこの学校に行くって知ったんや?」
「そりゃ、お父さんに決まってんじゃない? 雄兄さんはこの学校に行く学費をお父さんに出してもらってるんでしょ? だから知ってんの。来年は僕もこの学校を受験することになってるし。あ、そうそう! ちなみに僕が通ってる学校、今の雄兄さんの大学からそう遠くないから心配しなくても大丈夫。むしろ、この大学は僕の通学路の途中にあるしね。だから問題ないでしょ?」
その歩夢の言葉に、雄介は再び頭を抱えたくなる。
もし歩夢が同じ大学に入れば、大学生活の六年間、歩夢と同じ通学路を通うことになってしまう。
「せやけど、もしお前がこの大学に通うことができんかったらどうするんや?」
「僕のこと、心配してくれるんだー。やっぱ、雄兄さんって優しいね。でも、それはないと思うよ。僕、学校では成績優秀だし、この大学はお父さんもたまに顔を出すところだからねぇ。だから、雄兄さんもこの大学に入れたわけだしー」
その言葉に、雄介の眉間に深い皺が寄る。
「どういうことやねん……」
歩夢の言葉に、何か引っかかるものを感じたのか、雄介は静かに怒りをにじませつつ問い詰める。
「裏口入学ってことか?」
「それって、ホンマなんか!?」
雄介は真剣な表情で歩夢の胸ぐらを掴み、その瞳をじっと見つめる。
「……ちょ、それは……痛いって! だ、大丈夫だよ! 今のは冗談だから! でも、雄兄さんが僕にこんなに接近してくれるとは思ってなかったけどねぇ」
「アホかっ!」
そう吐き捨てるように言い、雄介は掴んでいた歩夢の制服を放すと、再び足早に駅へと向かう。
「まったく。やっぱ、雄兄さんって力あるんだなぁ。新調したばっかりの制服が今のでシワシワになっちゃったじゃん」
歩夢は独り言を漏らしながら、軽く皺を直して再び雄介の後を追う。
「ねぇ、ねぇー! 雄兄さん! さっきのは冗談だけどさぁ、来年から僕は雄兄さんの後輩になるんだけどねぇ。来年からはわからないこと、雄兄さんに聞くことにするね」
「俺やなくても親父がいるんやろがー!」
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