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ー決心ー88

 電車内は電気がまったく通っていないため、夜を迎えた車内は真っ暗である。  おそらく、この事故によって電線が切れてしまい、周辺も停電しているのだろう。そのため、闇の中に閉ざされた空間となっている。  しかし、既にレスキュー隊が対応に当たっており、事故現場周辺はレスキュー隊が持ち込んだ大型のライトによって煌々と明るく照らされていた。 「せやけど……俺、どんだけ意識失っとったんやろ?」  その時、雄介の右腕に鋭い痛みが走った。 「……っ痛っ! 流石にこんな事故で無傷っちゅう訳にはいかんよなぁ」  今までは意識を失っていて痛みを感じなかったのだが、意識が戻ると共に身体の感覚も再び働き始め、今まで感じなかった痛みが一気に押し寄せてきた。 「このままやと、右手は使えへんかもしれんなぁ」  利き手である右手が使えないとなると、非利き手である左手を駆使して何とかしなければならない。  雄介はポケットの小銭をかき集めて靴下に詰め込み、その途中を結んで簡易的な重りを作った。そして、今は空へ向かっている窓に狙いを定め、左手で靴下を振り上げた。  この方法は、車の中に閉じ込められた際に窓を割るための一つの手段だ。電車の窓にも通用するかは分からなかったが、何もせずにいるよりはマシだと判断したのだろう。雄介はその方法で脱出を試みた。  幸運にも予想通り、窓は割れた。これで窓の外に出られる可能性が開けたのだが、問題は自力で窓から抜け出せるかどうかだった。  片腕だけで自分の体を持ち上げるのはさすがに無理がある。どれだけ鍛えていても、この状況では限界があるようだ。  それでも、新鮮な空気が電車内に入ってきただけで状況は少し改善されたように感じられる。  雄介は一息吐くと、次に車両内の生存者を探し始めた。  無理に起こすのは危険だ。もし脳にダメージがある場合、動かしてしまうことで状況を悪化させ、最悪の場合は命を奪ってしまう可能性もある。 「ホンマ、こんな事故って初めてやんなぁ」  雄介は独り言を漏らしながら、辺りを見渡した。しかし、まだ誰も意識を取り戻している様子はなかった。

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