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ー決心ー89

 誰か一人でも男性が意識を取り戻してくれれば、この電車から脱出し、救助を要請できるかもしれない。だが、雄介が乗っている車両では、誰も目を覚ます気配がなかった。  それだけ、この車両、いや他の車両までもが大きなダメージを受けているのだろう。  横倒しになった電車内からは周囲の状況がほとんど分からない。ただ、今は天井側になってしまっている窓からだけ、わずかに外の様子が見えた。ヘリコプターが上空を旋回しているのが分かる程度だ。  それからしばらくして、歩夢がようやく目を覚ました。 「ん? んー……」  その声に雄介はすぐに反応し、 「歩夢! お前、大丈夫やったんか!」  少し興奮気味に歩夢の肩を揺さぶった。 「ぁ、うん……雄兄さん!?」  まだ意識がはっきりしていないせいか、暗闇で目も慣れていないようだった。歩夢は声の主を確認するように、ぼんやりと答えた。 「あ、ああ。そうや!」 「って、何があったの?」 「多分、俺らが乗ってた電車が事故に遭ったんやと思うで……」 「え!? 本当!?……で、事故からどれくらい経ってるの?」 「さぁな。それは分からんけどな。でも、それより――歩夢、体に何ともないんやったら、頼みたいことがあるんやけど、大丈夫そうか?」 「あ、うん。僕の方は大丈夫だけどね」 「そっか……ほんなら良かった。あのな、今、天井側に窓があってな。さっきそれを割っといたんやけど、とりあえずお前がそこから外に脱出して、状況を確認して、レスキュー隊の誰かを連れてきて欲しいねん」 「え? そんなこと……ていうか、雄兄さんがやった方が――」  歩夢は途中で何かに気づいたのか、一旦言葉を止めた。 「もしかして、雄兄さん、怪我してるの?」 「そうなんやって! せやからお前に頼んでるんや。怪我してなかったら、もうとっくに俺が脱出してレスキュー隊を呼びに行っとるわ!」 「だよねぇ。なるほどー、そういうことだったのねぇ。僕が行くのはいいけど……それ、雄兄さんからの頼みってことで、貸しってことになるよね?」 「……て、貸しってなんやねん」

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