1691 / 2073
ー決心ー89
誰か一人でも男性が意識を取り戻してくれれば、この電車から脱出し、救助を要請できるかもしれない。だが、雄介が乗っている車両では、誰も目を覚ます気配がなかった。
それだけ、この車両、いや他の車両までもが大きなダメージを受けているのだろう。
横倒しになった電車内からは周囲の状況がほとんど分からない。ただ、今は天井側になってしまっている窓からだけ、わずかに外の様子が見えた。ヘリコプターが上空を旋回しているのが分かる程度だ。
それからしばらくして、歩夢がようやく目を覚ました。
「ん? んー……」
その声に雄介はすぐに反応し、
「歩夢! お前、大丈夫やったんか!」
少し興奮気味に歩夢の肩を揺さぶった。
「ぁ、うん……雄兄さん!?」
まだ意識がはっきりしていないせいか、暗闇で目も慣れていないようだった。歩夢は声の主を確認するように、ぼんやりと答えた。
「あ、ああ。そうや!」
「って、何があったの?」
「多分、俺らが乗ってた電車が事故に遭ったんやと思うで……」
「え!? 本当!?……で、事故からどれくらい経ってるの?」
「さぁな。それは分からんけどな。でも、それより――歩夢、体に何ともないんやったら、頼みたいことがあるんやけど、大丈夫そうか?」
「あ、うん。僕の方は大丈夫だけどね」
「そっか……ほんなら良かった。あのな、今、天井側に窓があってな。さっきそれを割っといたんやけど、とりあえずお前がそこから外に脱出して、状況を確認して、レスキュー隊の誰かを連れてきて欲しいねん」
「え? そんなこと……ていうか、雄兄さんがやった方が――」
歩夢は途中で何かに気づいたのか、一旦言葉を止めた。
「もしかして、雄兄さん、怪我してるの?」
「そうなんやって! せやからお前に頼んでるんや。怪我してなかったら、もうとっくに俺が脱出してレスキュー隊を呼びに行っとるわ!」
「だよねぇ。なるほどー、そういうことだったのねぇ。僕が行くのはいいけど……それ、雄兄さんからの頼みってことで、貸しってことになるよね?」
「……て、貸しってなんやねん」
ともだちにシェアしよう!