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ー平和ー2

 翌朝、望は目を開けた。どうやら昨夜、パソコンの電源を入れたまま、机の上で寝落ちしてしまったらしい。  人間、疲れていると眠気には勝てないものだ。  望は辺りを見回すが、雄介の姿はすでにどこにもなかった。  以前のように、下から漂ってくる美味しそうな匂いも感じられない。  望は着替えを済ませ、階下に向かう。そこにも雄介の姿はなく、テーブルの上には雄介が早朝に作ったであろう朝食が望の分だけ並べられていた。  本当に今、望と雄介は以前以上にすれ違いの生活を送っているのだと実感する。  望はテーブルの上の朝ご飯を電子レンジに入れて温めた。  温め終えたご飯をテーブルに置き、雄介がいつも座っていた席を見つめると、自然とため息が漏れる。  確かに一人で食べるご飯は、独り暮らしが長かった望にとっては普通のことだった。  しかし、今は同居している雄介という恋人がいる。それなのに、食事の時間ですら一緒に過ごせない状況が続いている。  自分たちの夢のために、雄介には医者になってもらいたいと思っている。それは間違いない。  けれど、まさかこんなすれ違いの生活が続くとは、予想していなかった。  朝ご飯を食べ終えた望は、支度を済ませて、いつものように病院へと向かう。 自分の部屋に入ると、今日は珍しく和也が先に来ていた。  和也は望を見ると、いつものように明るい笑顔で声を掛けてくる。 「おはよー!」  そんな悩みのなさそうな和也の姿に、望は疲れたような顔でため息をつき、鞄をソファに置くと、ロッカールームへと消えていった。  その様子に気付かない和也ではない。  彼はソファの背もたれに顎を乗せ、望に声を掛ける。 「せっかく和也君が挨拶してんのに、朝から無視ってか?なんで俺を見てため息漏らすんだよ~。望は和也君のこと嫌いですかぁ?」  朝からふざけた調子で言う和也に、望は再びため息をつき、今度は彼の言葉すら無視してしまった。

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