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ー平和ー3

「分かったよー。俺がふざけなきゃいいんだな。じゃあ、単刀直入に真面目に聞くけどさ。そんな疲れたような顔して、何かあったのか? まあ、仕事に関しての疲れなら、俺が何とかフォローするけど……」  和也の言葉に、望はちらりとも反応を見せない。  和也はきっと望の事情を知ったうえで、わざと聞いているのかもしれない。  ただ、和也という人物は、相手が自分から言い出すまでは遠回しに話を聞き出そうとする性分だ。いや、望の場合、ストレートに聞けばさらに無視されると分かっているからこそ、こうした聞き方をしているのだろう。  ロッカールームから出てきた望は、目を据わらせ、不機嫌を隠す気配もなく和也を睨みつけると、 「うるさいっ!」  とだけ言い、和也の前のソファにどかりと座った。  和也は望の反応にひるむことなく、彼に視線を向けた。 「仕事のことじゃねぇよな? 望が仕事に関して『疲れた』なんて漏らすタイプじゃねぇしさ。それなら、残るのは雄介のことしかねぇよな?」  その瞬間、和也が「雄介」という言葉を口にしたとき、望が一瞬視線を向けたことを和也は見逃さなかった。 「やっぱりそうだよな。今、俺が『雄介』って言ったとき、お前、こっち見ただろ?まあ、それは置いといて……で、その雄介と喧嘩でもしたのか?」 「……喧嘩はしてねぇよ」 「喧嘩じゃねぇなら、何でそんな不満そうな顔してんだよ?」  和也もさすがに望の心を完全に読めるわけではない。  読めないなら、直接聞き出すしか方法はない。  だが、望はそれでも雄介のことについて口を開こうとはしなかった。  その様子を見た和也は、肩をすくめるように言った。 「分かった、分かった。俺はもうお前たちのことを聞き出そうとはしねぇよ。望が話したくなったときに、いくらでも話を聞いてやるからさ……それでいいんだろ?」  そう言うと、和也は立ち上がり、仕事場に向かう準備を始めた。 「ま、とりあえず言っておくけどさ、望。俺がこんなこと言ったら怒るかもしれねぇけど……仕事は仕事。プライベートはプライベートだからな」 「……分かってる!」  望は相変わらず怒ったような口調でそう返し、自分も立ち上がって仕事の準備を始めた。

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