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ー平和ー4
それから、仕事を終えた二人はそれぞれ自分たちの部屋へと戻っていく。
望は相変わらずパソコンとにらめっこを始めた。
静かな室内では、望が叩くパソコンのキーボードの音と、和也が部屋内を掃除する箒の音だけが響いている。
そんな中、和也がふと溜め息をついた。
その溜め息すらも部屋に響くほど、今の空間は静まり返っていた。
そして、和也は望の方を振り返り、声を掛ける。
「今朝のことは分かったけどさ。なんで望は俺に色々話してくれねぇんだ?」
だが、返ってくるのはキーボードを叩く音だけ。望は和也の言葉に反応しなかった。
和也は再び溜め息を吐き出すと、箒を片付け、ソファに腰を下ろしながら望に視線を向ける。
「分かったよ……。本当に俺に相談してくれねぇんならそれでもいい。ただ、俺の話を少しだけ聞いてくれねぇか?」
和也はそう言いながら、少し視線を宙に浮かせ、話を続けた。
「お前が恋愛とか恋人のことについてあまり話さねぇのは知ってるよ。でもさ、前にお前、俺に言ったことがあっただろ?『俺たちは親友なんだから、相談事があればいつでも相談に乗ってやる』って。あの時、俺だってなかなかお前らには言い出せなかったけど、それでもお前らに話して、結局助けてもらっただろ? あれで、俺は相談って結構大事なんだって思ったんだよ。相談するのは自分でできるけど、最終的に何を決めるかは自分次第だ。それが分かってるから、俺はお前に言うんだよ。何で最近、ラブラブだった望がこんなに不機嫌そうなんだ?」
望はキーボードを叩く手を止め、小さく溜め息を吐いた。そして、聞こえるか聞こえないかという小声で答える。
「……最近、俺たちは忙しいからだ」
その言葉を拾った和也は耳をピクリと動かし、望の言葉を復唱した。
「俺たちは忙しいから……?」
「雄介は学校の勉強、俺は仕事で忙しいからな……」
それだけをぽつりと言った望に、和也は一瞬考え込むように視線を宙に浮かせた。
そして、静寂が再び部屋を満たす中、ふと思いついたように和也が口を開く。
「……忙しい、ね……。だから最近はイチャイチャもできてねぇし、欲求不満でイライラしてんのか?」
和也は半分冗談交じりに言ったつもりだった。
だが、その言葉を聞いた途端、望は突然立ち上がり、顔を真っ赤にしながら和也の頭を軽く叩いた。
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