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ー平和ー5
「痛ってー!」
望は軽く叩いたつもりだったが、和也は大袈裟に痛がる素振りを見せる。
頭をさすりながら、和也は少し笑みを浮かべて言った。
「ま、望がそういう反応を見せるってことは、図星ってことだよな?」
和也は体勢を立て直し、今度は腕を組みながら軽く首を傾ける。
「んー、俺は今んとこ欲求不満じゃねぇけどなぁ。裕実と一緒に住んでるし、今が人生で一番幸せーって感じだしよ」
和也が幸せそうな表情を浮かべていると、タイミング良く仕事を終えた裕実が部屋に入ってきた。
「……和也? 今、『欲求不満』って言いませんでした?」
裕実は途中から二人の会話を聞いていたのだろう。「欲求不満」という単語だけが耳に引っかかったようで、その部分を強調して言いながら、和也のいるソファに近づいてくる。
「お! 裕実、仕事終わったのか?」
「『終わったのか?』じゃありませんよ。まったく……どこが欲求不満なんですか? 一緒に住むようになってから毎日、僕のことを抱いているのに、『欲求不満』だなんて……どうせ僕なんかじゃ足りないんでしょうね」
裕実は少し拗ねたように言うと、和也は焦った様子で手を振り、否定する。
「お前、何を勘違いしてんだ? ただの聞き間違いだろ? 俺が欲求不満なわけねぇだろ! こんな可愛い奴がずっと傍にいるのによー」
和也はそう言いながら裕実の体をギュッと抱き締めると、望に見えない角度で裕実の唇に軽くキスをした。
突然の行動に裕実は一瞬で顔を赤らめ、慌てて声を上げる。
「ちょ、ちょっと! 和也、やめてくださいよ! 望さんがいるじゃないですか!」
望は仕事に集中しているはずだったが、背後から二人のやり取りが丸聞こえだ。
先ほどからキーボードを叩く音が強くなり、微かに苛立ちが感じられる。
それに気づいた和也は、裕実の耳元に口を寄せて小声で囁く。
「……ってわけなんだよ。だから、今の望は不機嫌全開なんだ」
裕実は一瞬納得したように頷く。
「そうだったんですか……」
だが、すぐにハッと気づいて声を上げる。
「それじゃあ! 余計にダメじゃないですか! 僕たちがこんなところでイチャついてたら、望さんの機嫌が悪くなるのは当たり前じゃないですか!」
裕実の正論に和也は一瞬言葉を詰まらせ、苦笑いを浮かべる。
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