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ー希望ー4

 雄介は一つ息を吐くと、 「そうみたいやな……」  そう言い、もう一度、望に渡されたカルテを見つめる。 「……坂本淳」  そう雄介はブツブツとその人の名前を何度も小さな声で言っていると、急に大声を上げ、その場に立ち上がった。 「あー! 思い出したわぁー! もしかして! 俺の親友じゃないんか!?」  その雄介の声に辺りは静まり返り、和也は目を丸くして雄介を見上げる。流石の和也も、雄介のその声と周りからの視線に何かを感じたようだ。  だが次の瞬間、思わず雄介の口を押さえ、その場に座らせ、 「何だよ……いきなり大きな声出しやがって……。お前の声、でかいから、みんなビックリしてるだろうが……」 「あ、いや……スマ……」  雄介はいつものように謝ろうとしたが、そこで一旦言葉を止め、 「スイマセン……」  さっき望に言われた事を思い出したのか、丁寧にそう和也に向かい謝ると、今度は望や和也に聞こえるような声で、 「坂本淳って、俺の昔の仕事場の同僚で、尚且つ親友だと思うんですけど……」 「……坂本淳?」  その雄介の話に乗ってきたのは和也で、腕を組みながら天井を見上げる。  暫くして和也はその名前に心当たりがあったのか、手を叩くと、 「もしかして、お前の親友で、一番最初にお前が入院してきた時にお見舞いに来ていた人か? お前のことを刺した奴」 「刺したんやなくて……アイツが自殺しようとしたところを俺が止めようとして、間違って刺されただけなんやって……」 「ああ、まぁ、そうなんだけどよ。でも、会ってみないとお前の知ってる人かはまだ分からねぇんだろ?」 「あ、ああ……まぁ、そうやねんけどな。せやけど、もし、俺の知り合いやったら?」 「確かに……昔の親友が、お前が働く病院に入院してるのは複雑だよな?」  そんな二人の会話に、今まで大人しかった望が口を挟む。 「あのさぁ、例えその人が桜井先生の知り合いだとしても、患者さんは沢山居るんだから、みんな平等だからな。その人だけ特別な扱いはするなよ。それと、和也、午後からは坂本さんの検査に付き合ってくれ」 「はーい」  和也の軽そうな返事に、望はムッとした表情を向けるのだ。

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