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ー希望ー34

「そうなん? んー……まぁ、肺炎とかじゃないし、明日まで病名が判明するの待っといて、多分、命に関わるような病気でも無さそうやしな」  雄介はそう言うと、 「とりあえず、俺も仕事中やし、また暇な時にでも見舞いに来るし、そん時にでも合コンとか昔話とかしようや」 「あ、そうだったな……今はお前、仕事中だったんだよな」 「ま、そういうことやって」  雄介は坂本に笑顔を見せると、病室を出ていった。  部屋に戻る最中、雄介は人差し指を顎に当て、坂本の病気が何に当てはまるのか考え込んでいる。独り言をブツブツとつぶやきながら、ゆっくりと歩いた。 「ホンマ、なんやろうなぁ? 坂本の病気……特にレントゲンには何も写ってなかったしなぁ? 咳だけが酷いんか……しかも、夜とか朝方とか……やっぱ、分からへんわぁ。こういう時は望に相談した方がええよなぁ。まだ、俺は医者としては新米やし、下手な診断をしてもうて患者さんを死なす訳いかへんし、ほんなら望に聞いた方がええってことや……もし、急を要する病気やったらマズいしな」  雄介はそう決断すると、足早に部屋へと向かった。  雄介が部屋に戻ると、望が今日もパソコンに向かっている姿が視界に入った。  雄介は小さくため息を吐くと、望の背後に立ち、そっと肩に手を置く。 「なぁ、望……仕事が忙しいのは分かるんやけど、たまには休憩入れた方がええで。それにパソコンは目を悪くする原因の一つやしな」 「桜井先生……昨日から言ってますよね。言葉使いを気を付けてくださいね。それと、今は休憩を取っている程、暇は無いんですよ。家に帰ってやるより、仕事中にしっかり仕事をしてから、家ではゆっくりとしたいのでね」  望は仕事中は本当に仕事人間なのであろう。恋人である雄介に対しても、しっかり敬語を使っているのだから。今の望の言葉を聞いていると、遠回しの言い方ではあるが、『家では雄介と一緒にゆっくりしたい』という意味にも取れそうである。  雄介は話を聞いている間、呆れたような表情を浮かべていたが、望の言葉の意図に気づくと、自然と笑顔になった。

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