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ー希望ー37

 雄介は二人の後に付いて食堂に向かっている時に、あることを思い出す。  そう――望は熱を出すと素直になるということを。  暫くそういうことはなかったのだが、もしかしたら、そういう可能性がある。  雄介は和也の首襟を掴み、自分の方に引き寄せると、 「なぁ、和也……今、望の肩に腕を回してたやろ? そん時に感じへんかったか? 熱とか……」 「あ! そういうことか! そしたら、さっき望が素直だった理由が納得できるって訳か……」 「納得はええから、どうやったん? ほら、和也が肩に腕を回しても望の奴、怒らへんかったやろ?」 「そう言われてみればそうだよなぁ。まぁ、ここんとこ忙しかったから、そろそろ体壊しそうだしな」 「……って、納得とか分析とかええねんからー。望に聞いたりしたら、望のことやから答えてくれそうもないしな」 「あ、いや……本当のところは、何にも感じなかったってところなんだよな。だから、望に聞くか体温を計ってもらうしかないよな。今の望なら素直なんだから、体温計ってもらえるんじゃないか?」 「そうやな! 素直な望なら尚更や……」  雄介は和也にそう言われ納得すると、望の横に行き、 「な、望……体調とか悪くないか?」 「ん……まぁ、大丈夫かな?」 「ってことは、大丈夫じゃないとも取れるって訳やな?」  雄介は真剣な瞳で望のことを見つめる。 「昨日はレントゲンでは何ともなかったみたいだけど……」  そう言うと、望は雄介の方に向かい、雄介の首に腕を回すのだ。 「悪い……ゴメン……」  雄介は望のその行動に、病院の廊下のど真ん中でそんなことをされ一瞬焦ったのだが、急に望の体から力が抜け、雄介はその体を支えるのだ。 「ちょ、望! え? 大丈夫かぁ!? ……あ」  雄介は望の体を抱き上げると、 「和也! 一旦、部屋に戻るで!」 「分かってる!」 「やっぱ、ここんとこ連日の疲れが出たんやろな?」 「そうだろうと思うぜ……」  雄介はいつもと変わらない力で望のことを軽々と持ち上げると、部屋へと急ぐ。  そして二段ベッドの下に望のことを寝かせると、 「とりあえず、和也! 体温計!」  と、前とは違い、雄介はすぐに和也に指示を出すのだ。

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