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ー希望ー62

「あん時はホンマ、死ぬかと思うたんやけど、どうやら助かったみたいやね。あん時、坂本が言うとったんやけど、坂本が俺のことを探しに来て助けてくれたんやって……」  その雄介の言葉に望は首を傾げる。 「俺、その話知らねぇんだけど?」 「ああ、それな……確かに望には話せんかったかもしれへんなぁ。ほら、あん時は俺、レスキュー隊への異動が決まった日やったし、その後、望と会う日がなかったしな」 「そうだったのか……それで?」 「まぁ、朝、異動が決まってな。俺はある意味、望と離れなきゃならんと思うて絶望的になってたんや。そん時、高層マンションで火事があって……ほんで、俺たちは出動した訳や。それで消防活動をしてる時、俺の後ろにおったおばさんが『まだ子供があの中に居る!』って叫んでたんや。けど、俺たちの中では、消防活動の前に先に来てた部隊が中に入って人命活動をしてるから、中に人がいるはずはないって話やったんやけどな。どうもそのおばさんの言葉が気になって、命令違反やって分かっていながらも俺はマンションの中に入っていったんや……」  雄介は一息ついて続けた。 「ほんで、おばさんが住んでる十階に行って子供を探したんやけど、どこにもおらんかったんや。『やっぱおばさんの間違いや』と思うて、その家を出ようとした時に、酸素ボンベが空になりそうやっていう警告音が鳴り響いたんや。そん時、かすかに子供の声が聞こえてきてな。探してみたら、お風呂場の浴槽の中にその子がおったんや……」  望は黙って雄介の話を聞き続ける。 「酸素ボンベは底を尽きそうやったけど、ここまで来て子供を見殺しにはできへんやろ? とりあえず、どうにか子供を助け出そうとしたんやけど、その時に酸素がなくなってもうて、俺はその場で倒れてもうたみたいや。でも、幸い坂本たちが来てて助かったって訳や」 「ふぅん……」  雄介は少し照れくさそうに笑った。 「あん時、確かに俺は上の命令に従わなかったけど、そんでも子供を助けられたことだけで満足やったんや。それで上から怒られるなら別に構わへんかったけどな」 「まぁ、確かにそうだよな。でも、逆に上の言葉は絶対ってのも微妙だよな。それで助けられる命が助からない訳だしさ」

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