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ー希望ー63
「そやね。せやけど、今まで俺は上の命令で動いておったんやけど、医者っちゅうのは自分の力で動かなあかん。それに慣れるまでは時間がかかるかもしれへんで……。でも、俺はそのことを努力しようと思っとるから、協力はしてな」
「それは大丈夫だよ。お前が完璧になるまでは俺が付いていてやるからよ。だから、研修中は分からないこと、くだらないことでも疑問に思ったことでも聞いてくれ」
「分かった……」
雄介は望に向かって笑顔を見せると、
「さて、いい時間やろうし……行こうか?」
「ああ」
二人はお風呂から上がり、着替えを済ませる。
「望はもう今日は帰ったら寝るんやで!」
「ああ、分かったよ。桜井先生の言うことを聞きますよ」
望は珍しく、何故かクスクスと笑いながら言った。
「はーい。医者の言うことは聞いて下さいな」
雄介も望がふざけているのに気付き、一緒に軽口を交わす。
今はプライベートを楽しんでいる二人。だからこそ、ふざけ合えるのかもしれない。しかし、仕事になれば二人の立場は逆転する。
「ま、寝たかったら車ん中で寝ててもええしな」
「ああ、ありがとうな」
そして二人は車に乗り込み、行きと同様に雄介が運転し、望は助手席に座った。
外はいつの間にか夕方になっていた。
夕方になると帰宅する人が多い時間帯になるのか、先程まですんなり通れた道も渋滞し始めていた。
雄介は望を眠らせようと静かにしていたが、望が寝る気配はなく、
「望……寝ないんか?」
「なんかな、俺も運転する側だから分かるんだけどさ。渋滞してる時に助手席で寝られるのって、俺的には嫌なんだよな。だから、寝れないっていうのか……」
「ほんなら、家帰ったらすぐに寝る約束をしたら、今は起きててもええよ」
「そうさせてくれると嬉しいかな?」
「ほなら、なんか話そうか?」
「そうだなぁ。その方が俺的にはいいかな」
「望、体調良さそうなら、また明日から仕事復帰するか?」
「まぁ、そんなにゆっくりしてる場合じゃないからな……今日帰って、一日休んだら大丈夫だと思うぜ」
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