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ー希望ー74
「えっと……ほなら! 救急車を呼べばええんやな!」
雄介は、どうにか春坂病院まで辿り着ける方法を思いついたようで表情を明るくした。
しかし、周囲を見渡すと、山の真下という土地柄か、住宅が近くに見当たらず、公衆電話もない場所のようだった。
「アカンな……どないしよう……」
雄介は少しの間考え込んだが、遠くにぽつんと見える民家に気づき、そこを目指して歩みを進めることにした。
その民家に到着すると、雄介は急いでチャイムを鳴らした。少しして、中からおじいさんが出てきた。
おじいさんは雄介の顔を見ると、しばらく首をかしげてからこう言った。
「なんじゃ、どうしたんじゃ? おぉ……よく見たら、春坂病院の桜井先生じゃないかのう? 儂に何か用か?」
「あ、いえ、そういうことではなくてですね!」
普段は関西弁の雄介だが、望に教わったおかげで敬語も使えるようになっていた。
「すみません! 急ぎなんですけど、電話を貸していただけませんか? 救急車を呼びたいんです!」
「なんじゃ、そういうことか! そりゃ早く言わんかい……電話なら玄関の靴箱の上に置いてあるぞい」
「ありがとうございます!」
雄介は深々と頭を下げた。そして続けてこう頼み込んだ。
「それと、この患者さんを少しの間だけでいいので、ここで休ませてあげられないでしょうか?」
「いいぞ、いいぞ。困っている人を助けるのは当たり前じゃからな」
「本当にありがとうございます」
雄介は背中に背負っていた患者をおじいさんの家の玄関にそっと座らせると、すぐに電話を借りて119番をかけた。
電話を切った後、救急車が来るまでの間、雄介も玄関先に腰を下ろし、少し息を整える。
すると、おじいさんがじっと雄介を見つめながら話しかけてきた。
「ところで、どうしたんじゃ? 桜井先生がこんなところにおって、怪我をしてるこのお嬢さんがおる……全然病院の方向とは違うじゃろうに」
「実はですね……」
雄介は少し間を置き、おじいさんに状況を説明した。
「さっき、そこの山で飛行機の墜落事故がありました。それで、私たちも救助活動をしていたんですが……その救助ヘリが墜落してしまったんです。その際に運んでいた患者さんも巻き込まれてしまって……私はこの患者さんを背負って山を下りてきた、というわけです」
「そうじゃったのか……大変な目に遭ったんじゃなぁ……」
おじいさんは深く頷き、雄介の話をじっと聞いていた。
そのとき、遠くの方から救急車のサイレンの音が聞こえてきた。雄介は立ち上がると、外に出て手を大きく振り、救急車を自分たちの元へと誘導した。
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