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ー希望ー75

 救急車が到着し、中から降りてきたのは、かつて雄介が勤務していた春坂消防署の救急隊員だった。 「桜井さんじゃないですか! こんなところで何してるんです?」 「話は後や。とりあえず、この患者さんを春坂病院まで運んでくれへんか?」 「あ、分かりました!」  救急隊員は素早く患者を救急車に収容し、雄介も一緒に乗り込むと、車は春坂病院を目指して走り出した。  一息ついた雄介だったが、すぐに口を開いた。 「なぁ……消防からヘリを一機飛ばせへん?」 「……え? いきなり消防庁のヘリを飛ばすってどういうことですか?」  救急隊員は困惑した様子で雄介を見た。 「実はな……俺ら、救助ヘリの墜落事故に巻き込まれたんや。俺はこの患者さんを背負って山を下りてきたけど、まだ俺の相棒と操縦士さんが残されとんねん。しかも、もう一人の患者さんは頭を怪我してて、かなり危険な状態やねん。ウチの病院のヘリは墜落した一機だけやから、消防庁にヘリを出してもらえへんかと思っとるんや」  雄介は真剣な表情で訴えた。 「それなら、桜井さんが直接要請した方がいいんじゃないですか? お父様が消防庁の上層部にいらっしゃるんですよね?」 「あー、まぁ……そうなんやけどな……」  雄介は少し気まずそうに目をそらす。 「無線機、お貸ししますよ?」 「んー……せやけどな……今の俺は消防署の人間やないんや。それで要請してええんか、ちょっと引っかかっとるんや」  その言葉に救急隊員はようやく気づいたのか、雄介の白衣姿をじっと見つめた。 「あ、確かに。桜井さん、署で最近見かけないと思ったら……お医者さんになられてたんですね」 「せやで。大分前から消防隊員は辞めとったんや。救急と消防じゃ管轄も違うし、署内でも分かれてるやろ? 俺がおらんようになったのに気づかんのも無理ないわな」 「そうですね。桜井さんとは顔見知り程度で、あまりお話ししたこともありませんでしたから」  会話を交わしながらも、雄介は焦る気持ちを隠せなかった。 「とにかく、消防庁にヘリを出してくれるよう頼んでくれへんか?」 「分かりました。すぐに上に連絡してみます」 「できれば、そのヘリに俺も乗せてもらえたら一番ええんやけど……」 「それなら、やっぱり桜井さんが直接頼んだ方が話が早いんじゃないですか?」  救急隊員の提案に雄介は少し悩むようにうつむいたが、やがて決心したように顔を上げた。

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