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ー希望ー76

 雄介はその言葉に詰まり、顎に手を当てて何かを考えているようだった。 「せやからな……そのヘリで要請すると、親父が出そうやしなぁ」 「お父様が出ると、何かまずいことでもあるのでしょうか?」 「そうなんやって……ちょっと気まずくなりそうなことがやな。早く言えば、医者になったことをまだ親父には話してないんやって……せやから、まずいかなぁ? ってな……」 「そうだったのですか!? ということは、お父様は桜井さんが消防士を辞めたことも知らないんですか?」 「知らんってことは多分ないやろうけどな。俺が直接、親父に言うておらんって事やし」  そんな雄介に、救急隊員は溜息を吐きながら言う。 「そういうことは、親に相談してから決めることなんじゃないんでしょうか?」 「あ、まぁ……確かに普通はそうなんやろうけどな。俺の方も色々と忙しくて、親に相談する暇もなかったって言うんかなぁ?」 「ということはですよ……お父様は今、桜井さんが何をしていて、どこに住んでいるかも把握していないんですかね?」 「いやー、それは流石に姉貴くらいは聞いてるんちゃうかなぁ? って思うねんけどな。一応、姉貴には医者になるっていうのも言ってあるし」 「そうだったのですか……」  久しぶりに雄介は父親という存在を思い出したようだ。雄介の父親は消防庁の幹部クラスで働いている。雄介が望と付き合い始めてからは特に父親とは会っていないが、雄介の姉に当たる美里は父親に会う機会が多いため、雄介のことを話しているのかもしれない。それでも、雄介は親に会って直接職業を変えたことは言っていない。もしその無線で父親が出た場合、気まずいことになりそうだった。 「せやから、お願いやから、無線連絡はお前に頼みたいんや」  雄介は手を合わせて、その救急隊員に頭を下げた。 「分かりました。私が無線で要請しておきますね」 「ありがとうな……」  雄介はホッとしたように息を吐き、窓の外を見上げた。しかし、救急車の中からでは外の様子はほとんど分からない。いや、少しばかりは分かるのだが、救急車の窓にはスモークが貼られているため、外の景色は見えにくいと言った方が正確だろう。  やがて、救急車のサイレンの音が止んだ。どうやら春坂病院に到着したようだ。

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