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ー希望ー92

 そして望は裕二との話を終えると、雄介の部屋へと向かった。 「あのさぁ、今日もここに泊まろうぜ……家に帰らなくても大丈夫だろ?」 「……へ? あ、ああ、まぁな……」  雄介はパソコンの画面を見つめながら答える。  望は疲れたようにため息をつくと、雄介の背中に寄りかかった。正確には、床に座りながら雄介が座っている椅子の背もたれに頭を預けていた。 「やっぱ、昨日の今日で疲れが取れてないんか?」 「ああ、まぁな……」  雄介はあまり人の話に突っ込むことがない。今、望が裕二に呼ばれて話をしてきたようだが、その話さえ聞こうとはしない様子である。 「とりあえずさぁ、今、親父に話を聞いたのは、診療所ができたから、いつ行けるかっていうことだったんだけど……」 「そうやったん? これで、俺たちの夢が叶うやんかぁ!」  その望の話に反応し、雄介は嬉しそうに望の方に顔を向けた。しかし、望の方はそれほど嬉しそうな表情には見えない。 「どうしたん?」  望はソファへと向かうと腰を下ろし、 「確かに、俺たちの夢は叶うんだけど、なんでだろうな? なんか今は乗る気じゃねぇっていうのかな」 「……へ? 何でなん?」 「何でなんだろうなぁ? やっぱ、まだ不安があったりとか? 後は俺の担当の患者さんのことが心配だったり? それに、親父が言ってたんだけど、なるべくなら急いで行ってくれってさ。無医村だからだって」 「確かに無医村やったら急いだ方がええねんけど、裕実もまだ治らへんしな」 「一応、一ヶ月は待ってくれとは言っておいたけどさ、残り一ヶ月で俺の担当の患者さんを誰かに引き継ぎしたりしてギリギリ間に合うかってところなんだよな」 「望の不安って、それだけなんか?」 「それだけってな……お前は医者になったばかりだから分からないかもしれねぇけど、誰かにその患者さんを託すってことは不安なことなんだぞ! 俺がいない間、何があるか分からねぇしさ」 「望って、一見クールそうに見えて、患者さんたちに思い入れがあるんやな。大丈夫やって! 新城先生がおるやないかぁ。新城先生になら任せられるやろ?」 「うん……まぁな。後は診療所で上手くやっていけるのか、とか……一応、俺は院長になるんだから、後はプレッシャーとかかな?」

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