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ー信頼ー6
雄介はすぐさまその子のそばへ駆け寄った。自転車に乗り始めたばかりのような幼い女の子で、転んだ拍子に膝を擦りむいたのか、地面にうずくまり泣きじゃくっている。
雄介はその子の前でしゃがみ込み、優しい笑顔を向けながら声を掛ける。
「大丈夫かぁ?」
しかし、女の子は泣き続けるばかりで返事をしない。
「まぁ、とりあえず、足見せてくれへんかな?」
その言葉に、女の子は泣きながらも顔を上げ、警戒するような目で雄介を見た。
「……へ? だ、誰……?」
しゃくりあげながら問いかける女の子に、雄介は少し戸惑った様子で頭を掻く。
「あ、俺か? あー、そやな……そっか、まだ俺のこと知らんかったんか」
雄介は思い直したように、柔らかい口調で自己紹介を始める。
「俺な、この島に来て一週間目なんやけど、下の坂の近くに新しい診療所が出来たやろ? そこで先生やってる桜井雄介っていうもんやで」
そう言いながら、女の子が擦りむいた膝を手早く手当てし始める。
「……診療所の……先生?」
「そうや。とりあえず、傷の手当てはしたから、もう大丈夫や。今日はお風呂でちょっとしみるかもしれんけど、もし明日以降も痛かったら、診療所においで。そしたら俺がちゃんと治療したるからな」
雄介はそう言って再び優しい笑顔を見せた。その笑顔に、女の子はようやく安心したのか、泣き止んで小さな笑顔を返してくる。
「ありがとう、おにいちゃん!」
元気を取り戻した女の子は、自転車にまたがり直してペダルを漕ぎ始める。そして、坂を下りながら雄介に手を振った。
「ばいばーい!」
「気ぃつけてなー!」
雄介は手を振り返しながら、女の子の後ろ姿を見送った。
望が感心したように呟く。
「雄介、応急処置の道具を持ち歩いてるんだな」
「まぁな。外に出るときは、もしもの時のためにウエストポーチに常備してんねん」
「そっか……さすがだな」
望は納得したように頷き、二人は再び歩き始めた。次に向かったのは、海の方だった。
砂浜に出ると、両サイドに少し高めの岸壁がそびえ立ち、その間に広がるビーチには何台かの自転車が無造作に置かれている。海では子供たちが元気いっぱいに遊び、岸壁の上から次々に海へ飛び込んでいる光景が目に入った。
「なるほどなぁ。道理でさっきまで子供の姿をあんま見かけへんかったわけやな。みんなここに集まって遊んでたんか。都会っ子とは違って、自然を相手に遊んどるんやなぁ」
「いや、あそこから飛び込んで危なくないのか?」
望は少し心配そうに岸壁を見上げる。
雄介は笑いながら肩をすくめる。
「多分、大丈夫やろ。ああいう子らは、自分たちで大丈夫な場所をちゃんと知っとるもんや」
「そういうもんなのか?」
「せや。こういう自然と毎日向き合っとる子らは、遊び方だけやなく、自然の怖さも知っとるはずやしな」
望はしばらく子供たちのはしゃぐ姿を眺めながら、雄介の言葉を噛み締めるように頷いていた。
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