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ー信頼ー21

 そんな素直な望に、雄介の方はまともに望のことを見ていられなくなったのか、瞳を宙に浮かせ、眉間にまで皺を寄せてしまっている。  そこで、雄介はあることをふっと思い出したようだ。 「な、望……風邪とか熱とかって出してへんか?」  その雄介からの質問に、目をパチクリとさせる望。 そして、その雄介の言葉で何かを思い出したのか、急に頰を膨らませ、 「……何だよ……疑ってるってことか?」  望がそうポツリと漏らした言葉に、再び雄介は瞳を宙へと浮かせ、 「あー、すまん……そういう訳じゃないんやけどな。 ほら、望って、熱とか出すと体が熱くなるからなのか……あーっと……まぁ、そこは素直になるやんか……」  雄介はそう言いにくそうにしながらも、何とか答えた。 「それは、前に俺が記憶喪失になってからの後遺症のことだろ? 大丈夫、今はちゃんと意識もあるしさ。 だから後遺症でも何でもねぇよ。 至って普通の俺なんだからな」  そんなことを本人の口から言われても、やはり素直ではない望の方が「普通の望」なのだから、違和感を感じてしまう。 「あー、まぁ、ほなら、ええねんけどな」 「……お前さぁ、忘れたのか? 俺らって前に約束のようなことしたじゃねぇか。 俺の方は素直になるっていうのと、お前の方は決断力を付けるってことをさ。 だから、俺の方はその約束を守ってるっていう訳なんだよ。 雄介だってそうだろ? 完全に約束を守ってるってことになるんだろうが……」 「あ……」  そう思い出したかのように口にする雄介。  多分、雄介はその望との約束を忘れていたのかもしれない。だが、今の雄介は逆にその約束を無意識のうちにこなしてしまっているのだから、完全に忘れてしまっているのも無理はないだろう。 「その口振りってことは忘れてたってことだな。 まぁ、そこはいいんだけどさ。 もう、雄介の場合にはそんなこと、言われなくても身に付けちゃってるってことになるんだろうしな」 「まぁ、無意識っていうんか……もう、こう当たり前って感じがしとるしな」 「じゃあ、後は俺の方が意識せずに素直になるってことを努力すればいいってことになるんだよな?」  その望の言葉に、雄介は反応しようとしたのだが、そのことに触れてしまうと望が臍を曲げてしまいそうで、そこは突っ込まずに、 「ほな、そろそろ出ようか?」 「そうだな……これ以上入ってたら、逆上せてしまいそうだしな」  二人は湯船から上がると、脱衣所で着替え、二階にある部屋へと向かう。  その途中、望たちの部屋の手前にある和也たちの部屋からは何も音がしてこないところを見ると、きっともう寝てしまったのだろう。  そして望たちは自分たちの部屋へと向かい、早速ベッドに横になるのだった。

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