1997 / 2048
ー信頼ー51
雄介はそう言うと立ち上がり、紙を持ってきた。
「ほな、この紙に絵とか好きなように描いて、明日みんなで島中に貼りに行こ。とりあえずな、今日はこんくらいにして、夏休みやねんから、遊ばなきゃ勿体ないやろ?」
今日は望が診療所にいないため、子供たちの相手に全力を注げないと感じた雄介はそう提案した。
「うん!」
子供たちは素直に返事をして診療所を出て行った。
そんな様子に、雄介は安堵のため息を漏らす。
「今日は望がいないんやし、とりあえず、俺はここで待機やな」
独り言を漏らしながら、雄介は診療所の待合室で体を伸ばす。そして、蒼空たちを送り出した後、診療所の前に出て空を見上げた。
本当にここは都会とは違い、時がゆっくりと進んでいるように思える。都会と島の暮らしは、こんなにも違うものなのだろうか。
海から聞こえてくる静かな波の音。蝉の鳴き声。都会の湿気を含んだ熱風とは違い、島の風は熱くとも湿気が少なく、むしろ心地よく感じられる。それぞれの音や感覚が、自然の存在を強く感じさせてくれる。
都会では、物流のためにトラックや車が四六時中走り、電車も朝のラッシュ時間には三分おきに発車する。本当に慌ただしく、時間が早く進んでいるように感じる。しかし、ここでは人工的な動きがほとんどない。それが、時がゆっくりと流れているように感じられる理由なのかもしれない。
そのためか、事故も少なく、病気が蔓延することもあまりないのだろう。
「ホンマ、こんなんで大丈夫なんやろか? 確かに静かで平和な感じがするのはええねんけどなぁ……」
雄介が独り言を呟いていると、診療所の中から和也が出てきた。
「なーに、そこで佇んでるんだ?」
「ん? 和也か?」
「って、望だと思ったのか?」
「あ、いや……そういう訳じゃないんやけど……。んー、とりあえず、ここは都会よりも平和やなぁって思うてな。消防士やっていた頃には考えられないくらい、今はのんびりとした時を送ってるなーって思うてな」
「確かに、そうだよな。都会にいたら、今頃は病院の中で忙しそうにしていたかもな。ま、平和な生活っていうのも悪くないのかもな」
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