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ー信頼ー52

「せやけど、こうも平和やと、やっぱり物足りない感じがするわぁ」 「まぁな……今まで忙しかった分、そう感じるのかもな」 「でも、ホンマに大丈夫なんかなぁって思う時があるんや。今まで平和じゃなかった分、平和すぎると逆に不安になってくるねん」 「今は休めっていうことなんじゃないか?」 「まぁ、そうなんやろうけどな……。島の人たち、ホンマに大丈夫なんかなぁ? 病気してないかとか心配になるんや。俺らは他所から来たから、まだ完全に受け入れられてへんのかもしれへんけど、例えばこんな暑い日に熱とかで動けへん人、熱中症で診療所に来れへん人がいたら……って考えてしまうんよ」  雄介は眉間にしわを寄せながらそう呟く。 「まぁ、確かに夏風邪とか熱中症はこの時期多いからな。でも、望が治ったら、きっと島中の家を回ってくれるだろうさ」 「ま、それもそうやねんけどな……」  そんな会話を交わしている時だった。海の方から聞こえてくる子供の大声に、雄介と和也は反射的に振り返る。 「雄介先生! 蒼空が! 蒼空が海で溺れた!!」 「……へ?」  その言葉に二人は一瞬固まったが、すぐに真剣な表情になり、診療所から海へ向かって駆け出した。  途中で蒼空の友達と合流すると、子供たちは蒼空が溺れている場所を指差した。 「ここや!」  雄介は瞬時に判断し、着ていた衣服を脱ぎ捨てる。服を着たままでは水を含んで重くなり、思うように動けなくなる。最悪、自分が沈んでしまう危険もあるからだ。  訓練を積んだ雄介は、迷いなく海へ飛び込み、蒼空のいる場所へ一直線に泳いでいった。  蒼空にたどり着いた雄介は、彼の体を抱えて陸に戻る。  浜辺に上がると、蒼空は目を閉じ、息をしていなかった。その姿に子供たちは泣きそうな顔で見守る。 「蒼空……!」  雄介と和也は息を合わせて蒼空に人工呼吸を始めた。何度も繰り返し、胸を押し、呼吸を送り込む。 「頼む、生き返れ……!」  必死に声をかけながら、二人は手を止めない。すると、蒼空が突然、大量の水を吐き出し、荒い呼吸を始めた。 「蒼空!」  子供たちが歓声を上げる中、雄介と和也は深いため息をつき、互いに目を合わせた。 「大丈夫だったみたいやな……よかったわぁ」  雄介は安堵の表情を浮かべ、蒼空に笑顔を向ける。 「もう、こんなことすんなよ? ホンマ、びっくりしたわ」  蒼空は弱々しく頷きながら、まだ荒い呼吸を続けている。その姿に、雄介は再び小さく息をついた。

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