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ー信頼ー55

 望は診察室を出ると、入れ替わるように裕実が診察室へ入ってきた。裕実は和也を診察室のベッドに寝かせ、一応念のために和也の血液型を調べる。B型であることが確認されると、和也から血液を採取し始めた。 「何だか変な感じしますね」 「……へ? どういうことだ?」 「んー、知り合いの人を診るっていうか、処置しているっていうのが……なんか不思議な感じがして」 「まぁな……。でも、今は緊急事態なんだから仕方ねぇだろ?」 「ですね。でも、望さんは大丈夫なんでしょうか? 確か、昨日熱を出したばかりじゃなかったでしたっけ?」 「望なら大丈夫だろ。なんだろうな……緊急事態のときって、なんか違うパワーが発揮されるっていうか、そんな感じがするんだよなぁ」 「ですよねぇ」  しばらくして、裕実は和也から血を抜き終えると、それをすぐに雄介のもとへ運び、蒼空への輸血を始めた。 「これで、後は輸血が完了すれば大丈夫やんな」  雄介は安堵のため息を漏らした。  その後、望が診察室へ戻ってくると、雄介がすぐに声を掛けた。 「……って、何があったんだ? お前が下着一枚で診察室に戻ってきた理由を聞きたいんだけど……」  その一言に、雄介は一瞬吹き出しそうになったが、真剣な表情を作り、望の背中を押して診察室から待合室へと移動した。 「あんなぁ、言うとくけど、下着一枚で診察室に来たんは緊急事態があったからや。仕方なしにその姿でおったんやで……言うとくけど、流石に俺だって、この診察室で下着一枚で診察なんかせぇへんわぁ。とりあえず、蒼空が海で溺れているって聞いて、ほんで、俺は洋服着たまんまやったら溺れると思うて、仕方なしに服とか脱いで海に飛び込んだんやって。そいで、息してなかった蒼空を救出して、和也と一緒に人工呼吸しておって、息吹き返してきて、足まで怪我しておったから緊急事態やったし、そのまま蒼空のことを背負って診察室に戻ってきたっていう訳なんや」  望はその説明を聞いて、仕方なさそうに息を吐いた。 「そうだよな。本当、つくづく思うよ。やっぱ、お前ってすげぇ奴なんだってな。今、蒼空のこと、ほとんど一人で助けたようなもんなんだろ? だって、レスキューから治療まで、お前一人でやってきたんだからよ」

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