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ー信頼ー77

「そやねぇ、それやったら助かるわぁ」 「そしたら、望と二人だけの時間も増えるだろ?」 「ぅん……まぁ……」 「とりあえず、今日は俺が飯作るし、後は裕実と望が洗濯物畳むし、雄介はゆっくりしててくれよな」 「ゆっくりなぁ。なんやろ? 俺の性格なのかもしれへんけど、ただボーッとしてるのが逆にできへんねんな。常に動いていたいっていうんか……」 「ぅん……まぁ、とりあえずな、今は雄介にやってもらうことはないからさ」  雄介は和也に言われるまま、ソファに座ってテレビを見ていた。だが、どうにも落ち着かないのか、たびたび和也や裕実の方に視線を向けてしまっていた。  今やることはないとはいえ、じっとしているのが耐えられなくなった雄介は、ソファから腰を上げて診察室の方へと向かってしまう。  しばらくしてリビングに戻ってくると、診察室に置いてあった分厚い本を開き始めた。  それは世界で記録された珍しい症例について詳しく書かれた本だった。雄介にとっては、もう何度も目を通したことのある一冊だ。  病気という概念が人類に知られてから、これまでの医者たちはどれだけの病気と闘ってきたのだろうか。  十年ほど前には存在しなかった病気も、今では数多く見つかるようになっている。  まだ医者として経験の浅い雄介は、珍しい病気を診たことはほとんどない。だが、これから先、そういった症例に遭遇する可能性もある。  その時のためにも、知識を頭に入れておく必要があると雄介は考えていた。  そんな雄介の背後から、望が様子を見にやってきた。 「お前って、ホント、勉強熱心なんだな」 「んー、まぁ、とりあえずな……もし何かあった時に、すぐに対処できるようにしないとアカンやろ」 「ん? まぁ、それは確かにあるよな。前まではあんまり勉強好きじゃないって言ってたのに、本当は勉強嫌いなんじゃねぇのか?」 「ん? いや……嫌いだって。でも、医者になったんやから、勉強不足ってのはアカンやろ?」  その言葉を聞いて、望は思わず吹き出す。 「ホント、お前って謙虚なんだな」 「……!?」 「まぁ、確かに勉強しないよりは、しておいた方がいいのかもな」  望は、雄介が本当に医者という職業に馴染んでいるのだと改めて実感した。  つい数年前まで消防士として働いていたという事実を忘れてしまうくらい、今の雄介は医者として全力を尽くしているのだから。

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