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ー信頼ー79

 雄介たちはご飯を食べ終えると、 「俺、ちょっと電話してくるし、雄介たちが先にお風呂入っててもいいぜー」 「ほな、そうするかぁ」  和也は携帯を手に取り、なぜか外へ出て行った。  どうやら和也という人間は、そういった話を他人に聞かれるのが苦手なのかもしれない。 「ほな、望、風呂行こうかぁ?」 「……って、今はお前一人で入って来いよ。裕実を一人でリビングに置いておくのはかわいそうだろ?」 「あ! なるほど、そういうことな。ほな、一人で行ってくるなぁ」  雄介は望の言葉に、望の意図をすぐに理解したのだろう。そして一人で風呂場へ向かった。  リビングに残された望と裕実。  しかし、二人とも話し下手だ。だからなのか、二人はただテレビの方に視線を向けているだけだった。 「あ、あのさぁ」  最初に口を開いたのは望だった。 「今まで和也と雄介が親のことを話してたんだけどさ、その……お前のお父さんの話は聞いたことがあったんだけど、お母さんの方は聞いたことなかったなーって思ってさ」  そう望は少し遠慮気味に尋ねた。  確かに、以前和也から裕実の過去について聞いたことがあった。だが、それは父親に虐待を受けていたという話だけで、母親については触れられていなかったように思える。 「どうなんでしょう? 僕が物心ついた時には、もう母親はいなかったですからね。もしかしたら、お父さんが嫌で出て行ってしまったのかもしれませんよ。本当に僕は実琴君のことをあまり知らなかったんです。その辺の記憶はもう無いっていうのか、もしかしたら、僕にとって精神的に嫌な記憶になっているから、その部分だけ無意識に消してしまっている可能性もありますしね。なので、母親のことは覚えてないんですよね。だから、実琴君が現れた時に無意識のうちに『実琴君は兄弟なんかじゃない』って答えてしまっていたのかもしれません」  その話を聞き、望は改めて「人には聞いてはいけないことがある」と思った。 「あ、悪ぃ……聞いちゃいけないことを聞いたみたいでさ。そうだよな……やっぱ、聞いていいことと悪いことって人によってあるんだよな。本当、話し下手でゴメン……和也ならきっとこんなこと、聞かないんだろうけどさ」

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