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ー信頼ー84

「それにな……今更、親のところに帰る気なんか、さらさらないしなぁ。 なんやろ? 確かに俺は親に相談せずに医者になった訳やし、どっちかって言ったら俺の場合、ある意味、望のために医者になったようなもんやしな。 今更、諦めるわけにはいかんやろ?」 「僕だって、そうですよ。 雄介さんとは多少違いますが、もうこれ以上、僕には生きていける場所っていうのは無いと思いますしね。 例えば、今、他の病院で働くことになってしまったら、また、色んな人と上手くやっていく自信なんてありませんからね。 だから、本当に今は逆に望さんたちと出会えて良かったとさえ思っている位なんですから、そこのところは本当に感謝していますよ。 こんな僕でも受け入れてくれたんですから」 「うん、ありがとう。 まぁ、とりあえず、また、よろしくな」  そう望が言ったと同時に、リビングと廊下の間にある引き戸が勢いよく開けられる。 それと同時に、大きな音が部屋内に響いた。 「ちょー、和也ー! マジ、ビックリするから辞めろよな」 「あー、マジに気持ち良かったー!」 「じゃねぇよ……」  望は小さな声で突っ込むが、和也はいつもと変わらない感じで微笑んだ。 「ま、いいか……」  そう望は小さな声で言うと、 「そうだ! 裕実ー、どうせなら、二人で入って来ちまおうぜ」 「って、何だよー! 俺たちは一人で入ってきたのにさ」 「時間、あんまねぇし、短縮のためにな」 「ちょー、マジかよー」  本当に嘆いているのか、それともふざけているのか、和也は言う。 「怖い狼さんとは入りませんよー!」 「まったくー、裕実まで言うんだからさ」 「ホンマ、あの二人は仲ええんやな」 「まぁ、そういうことだから……」  そう言うと、望と裕実はお風呂場へと向かう。  久しぶりに二人きりにされた和也と雄介。 「……で、俺が風呂に入っている時に何を話してたんだ? 何か、戸を開ける前って、いつもとは違う空気が流れてたように感じたんだけどな」  そう和也は雄介が座っているソファの横に座り、雄介のことを真剣な瞳で見上げた。 「流石は和也やなぁ。 ホンマ、そういう事に関しては敏感って言うんか? まぁ、望の心配事って言うんかな? 今後もこの四人で診療所を続けていけるかっていうことなんやって……ほら、人間だからさ、結婚とかして子供とか産んで幸せな生活を送りたかったんなら、謝るって言っておったわぁ。 望の家庭の事情でこの島の診療所を作ってしまったようなもんだから、勝手に決めてしまってごめんとかな。 せやけど、そこは俺は何があっても望に付いていくって言うたし、俺の方はもう望の側にいるつもりやって話したわぁ。 だからな、まぁ、そういうことで和也の方はどうなん? って……」

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