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ー信頼ー89

「和也、どないしてくれんねん。望の奴、そっぽ向いてしもうたやないかぁ」  雄介は望に聞こえないようにと、和也の耳を引き寄せて囁いた。 「不機嫌全開の望をこっちに振り向かせるのは大変なんやで……」 「まぁ、そういうことだ。」  雄介からそう言われたにも関わらず、和也は立ち上がり、 「んー、とりあえず、寝るかな? 裕実、寝ようぜ」  そう言うと、和也は裕実の手を取って部屋へと行ってしまった。  雄介は望に聞こえないようにため息を漏らすと、 「な、なぁ、望ー、さっき和也が言ってたこと、許してやってなぁ」 「……分かってるよ。確かにはじめはムカつくって思ったけどさ。和也がいつもの和也に戻って、むしろホッとしたって感じだしな。もう、俺らって子供じゃねぇんだ。そんなことでいちいち腹立ててたら、ガキと変わらないだろ? 確かに俺の名前っていうのは女の子でも使われる名前だけどさ……親から最初に受け取ったプレゼントなんだぜ。一生なくならない貰い物なんだからさ、それが例え、自分が嫌いな名前だとしても、一生に一度しか貰えないプレゼントなんだから大事にしないとな。だから、今は『望』って名前は嫌いじゃねぇよ」 「確かに、そうやんなぁ。子供の頃っていうのは、もっとカッコええ名前が良かったとかって思うねんけど……今はそれでええって思っとるしな。それに、『雄』って意味は『際立って優れる』って辞書に書いてあったし、悪い意味じゃないしなぁ」  その雄介の言葉に、望はクスリと笑うと、 「今のお前にはピッタシの名前じゃねぇかぁ。ぅん……まぁ、親が一生懸命考えて付けてくれた名前なんだしな……いろんな意味もあるわけだしな」 「『望』やっていい意味やんかぁ。『希望』とかでも使われてるわけなんやしな」 「だから、大人になってからは自分の名前が嫌になったことはねぇよ。まぁ、小さい頃っていうのは多少バカにされてたけどな」 「子供って、言葉に関しては容赦ないしなぁ。まぁ、言葉に関してあんまよく理解してないっていうのもあると思うねんけど……心に思ったことをすぐ口に出してしまうもんやからな。まぁ、それでたまにキツいこと言われてもうて、傷付いてしまう場合もあんねんけど」

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