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ー信頼ー104
「まぁ、そうだね……。子供が苦手な兄さんには、大人の方の治療をしてもらった方がいいのかもしれないよねぇ」
「とりあえず、手術室の方は一つしかねぇから、重傷者を優先って事になるな。多分、父さん達が船に残ってる訳だから、父さん達は重傷者の方を優先的に連れて来てくれると思うよ」
「うん……そこは分かってる……」
「ただ、もし船を出してくれないとなると、どうやってその重傷者を島まで運んでくるかって事になるんだよな」
「一応、船には救助用のボートくらいは積んであるみたいだけど、ただ、船が転覆してしまっている今ではそれを使えるかどうかって所になるのかな?」
「そういう事になるのか……」
朔望と望が話をしていると、和也が走って来た。
「どうにか、船一隻だけ出してもらえるようにしてきたぜ。やっぱりさぁ、こんなに海が荒れてたんじゃ、船を出してもらえる事は出来なかったんだけど、とりあえず一隻だけっていう条件で出してもらえるようにしてきたからさ」
「一隻だけか……一回じゃあ、何十人の人を助けるって事は出来なさそうかな?」
「この分じゃ、あと数時間くらいで雨も風も強くなってきそうだしね。船一隻だけで、あそこにいる人達を助ける事が出来るのかなぁ?」
「どうだろうな……。とりあえず、そこはその一隻を頼るしかないみてぇだな」
「そうみたいだね」
そう答えた直後に朔望は、一人ボソボソと何かを唱えるように独り言を言い始めた。
「乗客は百人未満……船は一隻しかなくて……あと数時間もしないうちに雨が降って来る。先に重傷者を優先して運べたとしても、その一隻で船と島の往復を何回繰り返せばいいんだろ?」
朔望が独り言を漏らしていると、あの転覆してしまった船に乗っていた乗客の数名が島へと上がって来た。
今さっきの朔望達のように息を切らせながら陸へと這い上がる姿を見て、和也と裕実はすぐに体が動き、介抱に入る。
「大丈夫ですか?」
そう声を掛けながら肩や腰を支えた途端、何かに気付いたようで、
「裕実! 診療所に行って、毛布持って来ようぜ!」
「はい! 僕も今、そう思った所です。夏と言えど、この島は比較的涼しい所ですし、この距離を泳いで来ているという事は、相当体力も消耗していると思いますしね」
「そういう事……」
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