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ー信頼ー107

 気付くと、時刻は十六時半を指していた。 「とりあえず、僕と裕実さん、それから歩夢で、小学校の体育館にいる救助された人たちを見てるよ。どうせ兄さんはここで雄介さんを待つつもりなんでしょ? 和也さんは兄さんをサポートする形でここに残るのがいいんじゃない?」 「確かに、それがいいかもな。じゃあ、車はどうする? 俺のを使うか?」 「そうだね……」  そう言うと、和也は朔望に車のキーを渡した。 「あと数人か……。船がこれからどれくらいの人数を運んでくるのか、転覆した船との往復があと何回必要なのか……一回か、二回か。きっと最後の船で雄介は戻ってくるんだろうな」 「そうだな。でもさ、お前、自分の母親があの船に乗ってるってこと、忘れてないか?」 「あー! 確かに忘れてたかも……。いろんな人たちを診てるうちに夢中になって、すっかりお袋のこと忘れてた。そうなんだよな、まだお袋も来てなかったんだよな」 「きっと、和也のお袋さんも最後の船で来るんじゃない? 看護師だったんだろ? きっと俺の親父さんたちと一緒に人助けをしてるんじゃないのかな」 「多分そうだろうな……。うちのお袋、人助けって好きでやるタイプだから」  やがて最後の船が島へ到着した。望の父親と和也の母親が降りてくるのを見て安堵する。しかし、その中に雄介の姿は見当たらない。 「父さん、雄介は?」 「……雄介君? ああ、そういえば、雄介君はお父さんと一緒に船の周りを泳いでるよ。まだ捜索が必要かもしれないって調べているみたいだ」 「……えっ? そうだったのか……って、雄介の親父さんも!?」  望が驚いて口を開いたものの、小さな声だったため、周囲には聞こえなかったようだ。今回の船には、雄介の父親も乗っていたことが判明する。つまり、望にとって顔見知りがたくさんこの船に乗っていたことになる。  その時、和也の母親が息子の姿に気付き、近付いてきた。 「まあ、和也……大きくなったっていうか、歳を取ったっていうかしらねぇ」 「……って、お袋もそうだろ? とりあえず、毛布を……」  照れ臭そうにしながらも、和也は母親へ毛布を手渡した。 「ん、ありがとー!」  和也の母親は嬉しそうにその毛布を受け取る。 「和也……そこにいらっしゃる吉良先生から聞いたわよ。あなた、病院で大活躍してるんですってね。そういう点でも、本当に成長したのね。母さんはずっと心配してたのよ。あなたがいつか医療ミスするんじゃないかってね。本当に小さい頃からドジばっかりしてたから、看護師になった時から毎日のように不安だったのよ」

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