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ー信頼ー109
「もし、そうなったら力づくでも兄さんのことを連れて行くしかないってことだよ」
「そういうことか……そうだよな。それでもしない限り望は動こうとしないだろうしなぁ。それで望が危険な目に遭っちまったら、帰って来た雄介に面目が立たねぇしさ」
朔望は和也に向かって笑顔を見せると、望の側へと歩み寄る。
「ね? とりあえず兄さん……雨も風も強くなってきてるし、そろそろ小学校の方に行かない?」
「うん……ああ、そうだな」
望はそう答えるものの、どこか曖昧な態度で、その場を動こうとはしない。言葉では了承しているが、体はまるで動く気がないようだ。
朔望は仕方なさそうにため息を吐くと、和也へとアイコンタクトを送る。和也と朔望は望の両腕を抱え、強制的に車へと連れて行き、そのまま乗せてしまう。
「とりあえず、僕が運転するから、和也は後部座席で兄さんのことを押さえといて!」
「おう! 分かった!」
朔望は和也に望のことを任せると、運転席に向かう。
「……って、和也! 離せって!!」
「って、そんなこと言われたって離すわけがねぇだろ! 今、この腕を離しちまったら、望のことだ、降りて雄介のことをあの場所で待つんだからさ!」
和也の言葉を聞き、望は体を固くした。まさにその言葉通りだったからこそ、望は何も言えずにいるのだろう。
「体を固めるっていうことは、そういうことだろ? 降りるつもりがないんだったら、体を固めたりしないはずだしな」
「それと、兄さん……さっき自分で言ってたでしょ。嘘はダメだな。さっき兄さんは僕の質問に『行く』って答えたんだから、約束は守らないとね」
二人の言葉に、望は仕方なさそうにため息を漏らす。
「それに、こんな日に外に出てたら危険なんだからね! 風で飛んできた物が当たって怪我でもしたらどうするの? 軽傷で済めばいいけど、もし重傷や重体になったらどうすんのさ。それで雄介さんが帰ってきた時に、もし兄さんがいなかったら、悲しむのは雄介さんなんだからね!」
「……って、それ、さっき俺が望に言った言葉なんだけどな。そっか……もう、その時っていうのは、望の頭の中には雄介のことしかなかったから聞いてなかったかもしれねぇしな」
「分かってるけどさ……俺だって……」
「……俺だって……何!?」
まだ望の性格をよく知らない朔望は、続きを促すように尋ねる。
朔望の言葉に、和也は後部座席から朔望のほうを見て首を振る。その仕草はきっとバックミラー越しに朔望にも伝わったはずだ。
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