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ー信頼ー111

 和也は裕実たちを見つけると、朔望と望を連れてその場所へ向かった。 「雄介さんは、まだだったんですか?」 「ん……あ、まぁな。とりあえず、雨も風も強くなってきたし、あのままあの場所にいたら、俺たちも危なかったからさ。だから、一旦ここに避難しに来たんだ。もし望に怪我でもさせたら、雄介に申し訳立たねぇだろ?」 「確かに、そうですよねぇ」  裕実は和也の意図をすぐに理解したのか、笑顔を浮かべて今度は望に顔を向けた。 「きっと、雄介さんのことですから大丈夫ですよ!」 「うん……そうだな……」  今まであまり口を開かなかった望だったが、なぜだか裕実の言葉には一言だけ返事をした。 「とりあえず、私たちは避難用の食料で乾パンを食べたので、望さんも一口でもいいから食べたほうがいいんじゃないですか?」  裕実は、雄介を気にしている望に気を遣って声をかけたのだが―― 「とりあえず、食べようぜ! ヘコんでたって仕方ないんだからさ!」  和也は明るく声をかける。いつもの調子だったが、その言葉に裕実が反応した。 「和也!」  裕実は頬を膨らませ、和也を睨み上げた。 「……へ? 俺、何か悪いこと言ったのか?」 「言いましたから!」 「……へ? そうだったのか?」 「そうなんです!」  頬を膨らませたまま裕実が言い返す様子に、朔望は思わずクスクスと笑い出した。 「ホント、和也さんって恋人に尻に敷かれるタイプなんだねぇ。裕実さんにたじたじって感じじゃない?」 「そうなんだよ。俺は恋人に優しい男なの!」 「ふーん……そうなんだ。そんなところは素直なんだね。でも、兄さんに対しては素直になれないんだ。そこって、親友って呼べないんじゃない? 親友ってさ、心から信頼できる仲っていう意味だったはずだけど……。僕から見たら、まだ和也さんと兄さんの仲は、そこまでには見えないかなぁ?」  今まで朔望の言葉を軽く聞き流していた和也だったが、この一言にはさすがに頭に来たようで―― 「俺たちは信頼し合ってる仲だと思うぜ!」

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